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【整形外科医解説】上腕二頭筋長頭腱炎の治し方|ストレッチ・やってはいけないこと・寝方・ステロイド注射の断裂リスクまで

2026.03.21

まずは動画でチェック!【上腕二頭筋長頭腱炎について】

▶ 7分16秒・字幕付き|上腕二頭筋長頭腱炎の原因と治療の選択肢を解説

関節の痛みや手足のしびれを諦める前に。医師が教える最新の改善ヒントを動画でチェックする▶

「肩の前側がズキッと痛む」
「腕を上げると肩の前が痛い」
「夜間に痛くて眠れない」

——それは四十肩ではなく上腕二頭筋長頭腱炎かもしれません。放置すると腱断裂に至ることもあるこの疾患について、整形外科医が治し方から再発防止まで詳しく解説します。

上腕二頭筋長頭腱炎とは:なぜ痛むのか

構造と痛みのメカニズム(ロープと岩の摩擦)

上腕二頭筋長頭腱炎とは

上腕二頭筋(いわゆる「力こぶ」の筋肉)には、肩甲骨に付く「長頭腱」と「短頭腱」の2本があります。このうち長頭腱は肩関節の中を通り、上腕骨の細い溝(結節間溝)を通過して肩甲骨の関節窩上結節に付着しています。

腕を上げたり・ひねったりするたびに、この「腱(ロープ)」が「骨の溝(岩)」の上を繰り返し滑ります。使いすぎや加齢で滑りが悪くなると、ロープが岩に何度もこすりつけられ、ささくれのように傷ついて炎症を起こします。これが痛みの正体です。

発症しやすい人

  • 30〜50代の男性に多い(加齢による腱の変性が始まる時期)

  • オーバーヘッドスポーツ:野球・テニス・バレーボール・水泳(繰り返しの投球・打球動作)

  • 筋力トレーニング愛好者:ダンベルカール・ベンチプレスの使いすぎ

  • 重労働者:頻繁に重い荷物を持ち運ぶ方

  • 猫背・巻き肩:姿勢不良で腱の通り道が狭くなる

武内院長の臨床メモ:
「診察室で最も多いのは『数ヶ月前から肩の前が痛い、でも五十肩だと思って放置していた』という方です。五十肩は肩全体が動かしにくくなるのに対し、上腕二頭筋長頭腱炎は肩の動く範囲は保たれて、肩の前側のピンポイントな痛みが特徴です。この違いをまず確認します。」

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五十肩・腱板断裂との違い:3疾患の鑑別表

比較項目

上腕二頭筋長頭腱炎

五十肩(肩関節周囲炎)

腱板断裂

主な痛みの場所

肩の前側(ピンポイント)

肩全体・肩の奥

肩の外側・上部

肩の可動域

比較的保たれる

著しく制限される

力が入らない・特定方向で制限

夜間痛

あり

強い(初期)

あり

押すと痛い場所

結節間溝(肩前面の溝)

広範囲

棘上筋付着部(肩上部)

年齢

30〜50代に多い

40〜60代に多い

50代以降に多い

断裂リスク

放置すると断裂の可能性

低い

既に断裂している

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セルフチェック:上腕二頭筋長頭腱炎の確認方法

① 圧痛点チェック(最重要)

① 圧痛点チェック(最重要)

肩の真上ではなく「前側」のでっぱり(大結節の内側・結節間溝)を指で強めに押してください。「ズキッ!」と激痛が走る場合、上腕二頭筋長頭腱炎の可能性が非常に高いです。

② スピードテスト(Speed Test)

② スピードテスト(Speed Test)

手のひらを天井に向け、肘を伸ばして腕を前に出します。誰かに腕の上から下向きに押さえてもらい、それに逆らって腕を上に持ち上げようとしてください。このとき肩の前側に痛みが出れば陽性です。

③ ヤーガソンテスト(Yergason Test)

③ ヤーガソンテスト(Yergason Test)

肘を90度に曲げ、手を内向き(手の甲が上)にします。その状態で手を外側(手のひらが上になる方向)にひねろうとしてください。このとき肩の前側に痛みが出れば陽性です。

これらのテストが陽性の場合、整形外科でMRIによる精密検査を受けることをお勧めします。五十肩・腱板断裂との合併も多く、画像診断なしの自己診断には限界があります。実際に上腕二頭筋長頭腱炎と腱板断裂が合併しているケースは珍しくなく、片方だけ治療しても改善しない原因になります。

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やってはいけないこと(NG動作と生活習慣)

やってはいけないこと(NG動作と生活習慣)

NG動作:これが腱の摩擦を増やす

① 肘を伸ばして重いものを持つ:腕を伸ばしたまま買い物袋・フライパン・荷物を持つと、てこの原理で肩の腱に強烈な負担がかかります。必ず「脇を締め・肘を曲げて・体に近づけて」持つ習慣をつけてください。

② 手のひらを下に向けて持ち上げる:手の甲が上(回内位)で腕を上げると、結節間溝の中で腱の摩擦が増えます。物を取る時は「手のひらを上に向けて」取る癖をつけてください。

③ 後ろ手の動作(結帯動作):エプロン・ブラジャーの着脱、後ろのポケットに手を入れる動作は腱を強くねじります。痛みが強い時期は前で止めるタイプの下着を選ぶか、家族に手伝ってもらいましょう。

④ 急性期の患部マッサージ:炎症が起きている腱を直接もみほぐすことは逆効果です。炎症が悪化します。ほぐすべきは「力こぶの筋肉(上腕二頭筋)」であり、「腱(肩の付け根)」ではありません。

⑤ 痛みを我慢してのスポーツ継続:特に投球・打球動作は腱の断裂リスクを高めます。痛みがある間はスポーツを休止し、医師の許可が出てから再開してください。

痛い時の正しい寝方

夜間痛(寝ている時の痛み)はこの疾患の典型的な症状です。寝方を工夫するだけで大幅に楽になります。

❌ NG:痛い側を下にして横向きに寝る:体重で肩が圧迫され、血流が悪化して激痛になります。

⭕ 推奨①:抱き枕を使う:痛い側の腕を抱き枕に乗せ、肩が前に落ちないよう少し高くして寝ます。腱のテンションが緩み痛みが和らぎます。

⭕ 推奨②:仰向け+肘下クッション:肘の下にバスタオルやクッションを入れ、腕を少し浮かせます。肩関節がリラックスした良肢位になり夜間痛が軽減します。

⭕ 推奨③:健側(痛くない側)を下にした横向き:痛くない側を下にして、痛い側の腕は体の前に置きます。上側の腕が重力で引っ張られないようクッションで支えてください。

医師推奨のストレッチと自己ケア

重要原則:「腱(肩の付け根)」を揉んだり直接伸ばすのは逆効果です。「筋肉(力こぶ)」と「胸・肩甲骨周囲」をほぐします。

① 上腕二頭筋マッサージ(力こぶほぐし)

① 上腕二頭筋マッサージ(力こぶほぐし)

反対の手で力こぶの筋肉全体を掴み、優しく揺らすようにもみほぐします。肩の付け根(痛い場所)は絶対に触らないでください。筋肉が硬くなって腱を引っ張ることが痛みの原因なので、筋肉をほぐすことで腱への負担が軽減されます。1回2〜3分、1日2〜3回が目安。

② 大胸筋ストレッチ(胸を開く)

② 大胸筋ストレッチ(胸を開く)

猫背・巻き肩の方は胸の筋肉が縮んで肩を前に引っ張り、結節間溝を狭めています。壁に手(肘90度)をつき、体を反対側にゆっくりひねって胸の前を伸ばします。20〜30秒キープ×左右3セット。痛みが出る場合は無理しないでください。

③ 肩甲骨の動き改善(肩甲骨はがし)

③ 肩甲骨の動き改善(肩甲骨はがし)

肩甲骨の動きが悪いと腕を上げる際に肩関節だけで代償し、腱への負担が増えます。肩に手を置き、肘で大きな円を前後・後前それぞれの方向に描くように回します。1回10〜15回転×3セット。

急性期(腫れ・熱感がある時)は冷やす

炎症が強い急性期は1回15〜20分のアイシングを1日3〜4回。ストレッチは炎症が落ち着いてから(通常2〜3日後)に開始してください。

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病院での治療:注射・手術の選択基準

ヒアルロン酸注射

関節の滑りを良くし炎症を抑えます。副作用が少なく安全ですが、劇的な鎮痛効果は期待しにくいです。慢性期の管理や再生医療との組み合わせで使われることがあります。

ステロイド注射(コルチゾン・ケナコルト等)

痛みが非常に強い場合の「切り札」として使われます。1回で劇的に痛みが取れることが多いですが、整形外科医として必ず伝えることがあります。診察室でも「注射を打てば一発で治る」と期待して来院される方が多いですが、注射はあくまで「痛みを一時的に抑える手段」であり根本的な修復ではありません。

【警告:ステロイド注射の回数制限】
ステロイドには組織を萎縮させる副作用があります。同じ部位に繰り返し注射すると腱がもろくなり、断裂リスクが著しく高まります。一般的に同一部位への上限は通常3〜4回とされており、毎月のように打ち続けることは推奨できません。注射で痛みが消えている間にリハビリで根本原因(筋力・姿勢・肩甲骨の動き)を改善することが必須です。

【関連コラム】
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手術(腱固定術・腱切離術)

保存療法6ヶ月で改善しない・腱が切れかかっている場合に検討します。

  • 腱固定術:傷んだ腱を骨から切り離し、別の位置に固定。力こぶの形が保たれ筋力も維持できるが、入院・リハビリ期間が長い。

  • 腱切離術:腱を切ってそのままにする方法(主に高齢者)。回復は早いが「ポパイサイン(力こぶが下にずれる変形)」が残ることがある。

第3の選択肢:再生医療(幹細胞治療・PRP-FD治療)

「ステロイドの断裂リスクが怖い」
「手術は入院できない」
「スポーツに復帰したい」
という方に選ばれているのが再生医療です。

ステロイドとの決定的な違い:ステロイドが「炎症を一時的に止める(腱は弱くなる)」のに対し、幹細胞・PRP治療は「傷ついた腱の修復を促す(腱が強くなる)」根本治療です。副作用がほぼなく日帰り・入院不要で受けられます。

項目

ステロイド注射

再生医療(当院)

手術(腱固定術)

目的

一時的な炎症止め

組織の修復・再生

構造を変える

腱への影響

脆くなる・断裂リスク

強くなる・修復

固定される

入院

不要

不要(日帰り)

必要

回数制限

3〜4回まで

なし

1回

スポーツ復帰

早いが再発しやすい

組織修復後は再発しにくい

数ヶ月かかる

回復期間・スポーツ復帰の目安

治療法

日常生活復帰

スポーツ軽度再開

スポーツ本格復帰

保存療法(安静+リハビリ)

2〜4週間

1〜2ヶ月

3〜6ヶ月

再生医療

1〜2週間

1〜2ヶ月

3〜4ヶ月

腱固定術(手術)

術後4〜6週

術後4〜5ヶ月

術後6〜12ヶ月

腱切離術(手術)

術後2〜4週

術後2〜3ヶ月

術後3〜4ヶ月

実際に、「手術しかない」と宣告された50代のテニス愛好家が、再生医療によって痛みが消失し、手術を回避してコートに戻られたケースも数多くあります。

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予防:再発しないための習慣

上腕二頭筋長頭腱炎は適切に治療しても再発しやすい部位です。完治後も以下の習慣を続けることが重要です。

ウォームアップ・クールダウンの徹底:スポーツ前後に肩甲骨周囲・大胸筋・上腕二頭筋のストレッチを5〜10分行います。特に寒い環境でのスポーツは腱が硬くなりやすいため念入りに。

猫背・巻き肩の改善:姿勢不良は結節間溝を狭め腱への摩擦を増やします。日常的に「肩甲骨を寄せる」意識と胸を開くストレッチが有効です。デスクワーク中は1時間に1回肩を回す習慣をつけてください。

筋力トレーニングの漸進的増加:急に負荷を増やすと腱への過負荷になります。重量・回数・頻度は週あたり10%以上増やさないのが原則です。特にダンベルカールは肘関節の角度と可動域を意識したフォームで行ってください。

疲労サインを見逃さない:「なんとなく肩の前が重い・違和感がある」という段階で休養するのが最も有効な予防策です。この段階で適切な処置をすれば数日で回復しますが、無視して使い続けると数ヶ月かかる炎症に発展します。以前、済生会中津病院に勤務していた頃、「もう少し早く来てくれれば…」と感じた患者さんが何人もいました。違和感の段階での早期相談が最善の予防策です。

よくある質問(FAQ)

Q. 上腕二頭筋長頭腱炎はどのくらいで治りますか?

軽度であれば安静とリハビリで1〜3ヶ月で改善することが多いです。半年以上続いている場合は慢性化しており自然治癒が難しくなります。ステロイド注射や再生医療などの積極的な治療を検討してください。スポーツへの完全復帰は保存療法で3〜6ヶ月、手術後は6〜12ヶ月が目安です。

Q. 上腕二頭筋長頭腱炎を放置するとどうなりますか?

炎症が続くと腱がすり減り、最終的に「ブチッ」と断裂することがあります。断裂すると力こぶが変形(ポパイサイン)し、腕の筋力が低下します。高齢者では痛みだけで手術しない場合もありますが、現役世代やスポーツをする方は早期治療が必須です。

Q. 上腕二頭筋長頭腱炎は温めるべきですか?冷やすべきですか?

急性期(腫れ・熱感・ズキズキとした鋭い痛み)は冷やす。慢性期(1ヶ月以上続く鈍い痛み・腫れなし)は温める。が基本です。判断に迷う場合は整形外科に相談してください。

Q. 筋トレは完全にやめるべきですか?

痛みがある急性期は上腕二頭筋を使うトレーニング(ダンベルカール・ハンマーカール・バーベル・懸垂)は完全に休止してください。下半身・体幹・有酸素運動は継続可能です。症状が落ち着いたらリハビリ専門家の指導のもと段階的に再開します。再開後も最初の2〜3週間は重量を通常の50〜70%に抑え、痛みが出ないことを確認しながら徐々に増やしてください。ダンベルカール再開の目安は「健側と同じ重量で痛みなく10回できること」です。

記事監修:シンセルクリニック 総院長 武内 晋司郎(整形外科医)

参考文献

  1. Nho SJ, et al. "Systematic Review of Outcomes After Biceps Tenodesis for Treatment of Proximal Biceps Tendon Disorders." Arthroscopy 26, no. 9 (2010): 1248-1256. 腱固定術の術後成績システマティックレビュー。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20810097/

  2. Drakos MC, Rudzki JR, Allen AA, Potter HG, Altchek DW. "Internal impingement of the shoulder in the overhead athlete." Journal of Bone and Joint Surgery 91, no. 11 (2009): 2719-2728. オーバーヘッドスポーツと長頭腱炎の関係。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19884450/

  3. Cheng NM, Pan WR, Vally F, Le Roux CM, Richardson MD. "The arterial supply of the long head of biceps tendon: anatomical study with implications for tendon rupture." Clinical Anatomy 23, no. 6 (2010): 683-692. 長頭腱の血流と断裂リスクの解剖学的根拠。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20552668/

  4. 日本整形外科学会「肩腱板断裂 診療ガイドライン」。長頭腱炎の治療選択肢・ステロイド注射の適正使用。
    https://www.joa.or.jp/

  5. Bateman M, Hill JC, Cooper K, Littlewood C, Saunders B. "Lived experience of people with lateral elbow tendinopathy." BMJ Open 13, no. 8 (2023): e072070. 腱炎患者の生活への影響の質的研究。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37598960/

院長監修記事

シンセルクリニック総院長 武内の顔写真

武内 晋司郎

(たけうち しんじろう)

シンセルクリニック総院長

三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。

医師プロフィールはこちら

三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。

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