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【整形外科医が解説】人工肩関節置換術とは?禁忌肢位・リハビリ・日常生活の注意点を徹底解説
「人工肩関節置換術を勧められたが、どんな手術かよくわからない」
「術後の生活制限は何があるのか」
「リハビリはどのくらいかかるのか」
——肩関節の手術を前にした患者さんやご家族から、こうした質問を外来で多くいただきます。
人工膝関節・人工股関節は広く知られるようになりましたが、人工肩関節置換術はまだ情報が少なく、手術を勧められても正確に理解できないまま決断を迫られる方が多いのが現状です。
この記事では整形外科医として今までの手術経験をもとに、手術の内容・種類・適応・禁忌肢位・リハビリのガイドライン・日常生活の注意点を、患者さんが知りたい実務的な情報に絞って解説します

- 人工肩関節置換術とは:3種類の手術の違いを正確に理解する
- ① 人工骨頭置換術(Bipolar Shoulder Arthroplasty:BSA)
- ② 解剖学的全人工肩関節置換術(Total Shoulder Arthroplasty:TSA)
- ③ リバース型人工肩関節置換術(Reverse Shoulder Arthroplasty:RSA)
- 人工肩関節置換術の適応:「手術が必要」な状態とは
- 手術の流れ:入院からリハビリ開始まで
- 【最重要】禁忌肢位:術後にやってはいけない姿勢・動作
- 解剖学的TSA(腱板が残っている場合)の禁忌肢位
- リバース型RSAの禁忌肢位(特に重要)
- リハビリテーションのガイドライン:4フェーズで理解する回復の流れ
- フェーズ1:関節保護期(術後0〜3週間)
- フェーズ2:可動域拡大期(術後3〜8週間)
- フェーズ3:総合的肩関節機能獲得期(術後8週〜3ヶ月)
- フェーズ4:ホームエクササイズ期(術後3ヶ月以降)
- 術後の日常生活:具体的な注意点
- 睡眠
- 入浴
- 衣服の着脱
- 自動車運転
- スポーツ・趣味
- 人工肩関節の耐用年数と再手術のリスク
- 「手術前に知っておくべきこと」:整形外科医からの正直なメッセージ
- 1. 保存療法を十分に試しましたか?
- 2. 術後の可動域に過度な期待を持っていませんか?
- 3. 「手術しない選択肢」を検討しましたか?
- 解剖学的TSA vs リバース型RSA:どちらを選ぶべきか
- 腱板の状態が最大の決定因子
- 年齢と活動性のバランス
- 術後の目標動作の違い
- 人工肩関節置換術後の合併症:知っておくべきリスク
- 「手術しない」という選択肢を最大限に活かすために
- よくある質問(FAQ)
- 人工肩関節の手術時間・入院費用はどのくらいですか?
- 術後はどのくらいで腕が上がるようになりますか?
- 反対側の肩も悪い場合、両側同時に手術できますか?
- RSAの術後、結滞動作は一生できませんか?
- 手術を受ける施設の選び方:整形外科医が教えるチェックポイント
- RSA認定施設であるかどうか
- リハビリ体制が充実しているか
- セカンドオピニオンを活用する
- 腱板断裂から人工肩関節置換術に至る経過:早期対応の重要性
- まとめ
- 関連コラム
- 参考文献
人工肩関節置換術とは:3種類の手術の違いを正確に理解する

「人工肩関節置換術」という言葉は1つですが、実際には3種類の手術があります。どの手術を行うかは、肩関節の損傷の程度・腱板の状態・患者さんの年齢によって決まります。
① 人工骨頭置換術(Bipolar Shoulder Arthroplasty:BSA)
上腕骨頭(ボール側)のみを人工物に置き換える手術です。肩甲骨の関節窩(受け皿側)の軟骨が比較的良好な場合、または骨折によって上腕骨頭が粉砕した場合に行われます。関節窩側を温存するため、侵襲が比較的小さいのが特徴です。
② 解剖学的全人工肩関節置換術(Total Shoulder Arthroplasty:TSA)
上腕骨頭と肩甲骨関節窩の両方を人工物に置き換える手術です。変形性肩関節症や関節リウマチで、腱板の機能が保たれている場合に適応となります。腱板(肩を安定させる筋肉群)が正常に機能していることが大前提であり、腱板断裂がある場合は禁忌になることがあります。
③ リバース型人工肩関節置換術(Reverse Shoulder Arthroplasty:RSA)
通常の肩関節と逆の構造(上腕骨側が受け皿・肩甲骨側がボール)にした特殊な人工関節です。2014年に日本で認可されたこの術式は、腱板が大きく断裂して修復不能な場合に特に有効です。腱板がなくても三角筋の力だけで腕を挙げることができるようになります。
術式 | 適応 | 腱板の状態 | 特徴 |
|---|---|---|---|
人工骨頭置換術(BSA) | 上腕骨頭骨折・関節窩が良好な変形性関節症 | 機能している | 侵襲が小さい。関節窩を温存 |
解剖学的TSA | 変形性肩関節症・関節リウマチ | 必ず機能している必要あり | 痛みの除去と可動域改善に優れる |
リバース型(RSA) | 腱板断裂性関節症・修復不能な大断裂 | 修復不能・機能不全 | 三角筋のみで挙上可能。脱臼リスクあり |
腱板断裂が長期間放置されると、やがて腱板断裂性関節症(CTA:Cuff Tear Arthropathy)に進行します。この状態ではTSAは禁忌となり、RSAが第一選択になります。腱板断裂を放置した場合のリスクについては腱板断裂を放置するとどうなる?自然治癒は?痛みの経過と手術回避の選択肢もあわせてご覧ください。
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人工肩関節置換術の適応:「手術が必要」な状態とは

以下の条件が揃った場合に、人工肩関節置換術が検討されます。
変形性肩関節症・腱板断裂性関節症・関節リウマチ・上腕骨近位端骨折などの診断
鎮痛薬・ステロイド注射・ヒアルロン酸注射・リハビリなどの保存療法を十分に行っても改善しない
安静時痛・夜間痛があり、睡眠に支障が出ている
腕が挙がらない・衣服の着脱・トイレ動作が困難など日常生活動作(ADL)に著しい支障がある
逆に、以下の状態は手術の禁忌となります。
感染症(化膿性肩関節炎の既往・活動性感染)
三角筋機能不全(三角筋が機能していない場合はRSAも成立しない)
神経原性関節症(シャルコー関節)
全身状態が手術・全身麻酔に耐えられない場合
「手術しかない」と言われたが決断できない方向けには肩腱板断裂の手術で後悔したくない人へ。再断裂のリスクと「切らない」治療の選択肢もあわせてご覧ください。
手術の流れ:入院からリハビリ開始まで
時期 | 内容 |
|---|---|
手術前日(入院) | 術前評価・麻酔科診察・リハビリ室での術前評価 |
手術当日 | 全身麻酔または神経ブロック麻酔下で1〜3時間 |
術翌日 | ベッドから起き上がり・歩行開始 |
術後3〜7日 | 振り子運動(ペンジュラム運動)開始 |
術後2〜3週間 | 三角巾除去・自動運動開始(TSAの場合) |
術後2〜4週間 | 退院(施設により異なる) |
退院後2〜3ヶ月 | 外来リハビリで日常生活動作の回復 |
術後3〜6ヶ月 | 挙上動作の獲得・仕事復帰の目安 |
入院期間はTSAで2〜3週間、RSAで3〜4週間が一般的です。
術式・合併症・施設によって異なるため主治医に確認してください。
【最重要】禁忌肢位:術後にやってはいけない姿勢・動作
人工肩関節置換術後に最も注意すべきは脱臼リスクのある禁忌肢位です。特にリバース型(RSA)は解剖学的TSAに比べて脱臼リスクが高いため、術後6週間は禁忌肢位の厳守が求められます。
解剖学的TSA(腱板が残っている場合)の禁忌肢位
TSAの脱臼方向は主に前方脱臼です。以下の動作が禁忌または注意が必要です。
禁忌の動作・姿勢 | 理由 | 制限期間の目安 |
|---|---|---|
肩関節の強制外旋+伸展の複合動作 | 前方関節包への過剰ストレス→前方脱臼リスク | 術後6週間 |
重いものを持ち上げる(5kg以上) | インプラントへの過負荷→緩みのリスク | 術後3ヶ月(以降も要注意) |
強い牽引力がかかるスポーツ(テニス・野球など) | インプラントの緩み・破損リスク | 主治医の判断まで |
転倒リスクのある行動(ぬれた床・段差) | 転倒→インプラント周囲骨折のリスク | 退院後3ヶ月間特に注意 |
リバース型RSAの禁忌肢位(特に重要)
RSAの脱臼方向は後方脱臼が多く、特に「結滞動作(けったいどうさ)」——手を背中に回す動作——が最も危険な禁忌肢位です。
禁忌の動作・姿勢 | 具体例 | 制限期間の目安 |
|---|---|---|
結滞動作(手を背中に回す) | 帯を結ぶ・後ろのチャックを閉める・後ろポケットに手を入れる | 術後6週間(施設により3ヶ月) |
肩関節の伸展位(後方に腕を引く姿勢) | 安静時・就寝時に肩が後方に落ちる姿勢 | 術後3〜6週間 |
外転装具を外しての自己判断の運動 | 早期に装具を外して動かす | 医師の指示まで厳守 |
うつ伏せでの就寝 | 肩関節が伸展・内旋方向に強制される | 術後6週間 |
RSAの術後3週間は外転装具固定期間が設けられます。この間は三角筋の筋緊張緩和と軟部組織の修復を目的として、装具を着けたままでの生活が基本となります。装具着用中の就寝時は特に肩関節が伸展位にならないよう注意が必要です(※1)。
脱臼が起きると全身麻酔をかけて整復する手術が必要になります。禁忌肢位の遵守は術後回復において最も優先度の高い事項です。術後の肩に関するやってはいけないことは腱板断裂で「絶対にやってはいけないこと」5選もあわせて参考にしてください。
リハビリテーションのガイドライン:4フェーズで理解する回復の流れ
人工肩関節置換術後のリハビリは、大きく4つのフェーズに分かれます。日本整形外科学会のガイドラインと実際の臨床経験をもとに解説します。
フェーズ1:関節保護期(術後0〜3週間)
軟部組織の修復が最優先の時期です。外転装具を着用し、患部を安静に保ちます。この時期に行うリハビリは以下のとおりです。
振り子運動(ペンジュラム運動):重力で腕を自然に揺らす。関節内の浮腫を軽減し可動域を保持する
手首・肘の自動運動:握力維持・浮腫予防のため積極的に動かす
アイシング:術後疼痛・腫脹の管理(1回15〜20分、1日3〜4回)
姿勢指導:禁忌肢位の理解と日常動作の修正
フェーズ2:可動域拡大期(術後3〜8週間)
装具を除去し、自動介助運動(セラピストが手を添えながら動かす)を開始します。
TSAの場合:腱板の修復を確認しながら外旋・内旋の可動域訓練を開始
RSAの場合:三角筋の筋緊張緩和と可動域拡大を並行。結滞動作は引き続き禁忌
自動運動の開始:術後6週目ごろから自力での挙上動作の練習
フェーズ3:総合的肩関節機能獲得期(術後8週〜3ヶ月)
日常生活動作(ADL)への応用を目指す時期です。
筋力強化:三角筋・残存腱板筋・肩甲骨周囲筋の筋力強化
ADL訓練:衣服の着脱・入浴動作・調理動作などの実用的な動作練習
仕事復帰の準備:デスクワークは術後6〜8週間、立ち仕事・軽作業は術後3ヶ月が目安
フェーズ4:ホームエクササイズ期(術後3ヶ月以降)
外来リハビリを卒業し、自宅での自主訓練に移行します。筋力の維持・転倒予防・インプラントの保護を目的とした運動を継続します。肩関節のストレッチについては整形外科医が教える肩のストレッチも参考にしてください。
フェーズ | 期間 | 主な目標 | 禁忌事項 |
|---|---|---|---|
フェーズ1(関節保護期) | 0〜3週間 | 軟部組織修復・疼痛管理 | 外転装具の自己除去・禁忌肢位 |
フェーズ2(可動域拡大期) | 3〜8週間 | 可動域の段階的拡大 | RSAは結滞動作引き続き禁忌 |
フェーズ3(機能獲得期) | 8週〜3ヶ月 | ADL自立・仕事復帰 | 重いものを持つ・衝撃的スポーツ |
フェーズ4(自主訓練期) | 3ヶ月以降 | 筋力維持・長期的なインプラント保護 | インプラントに過剰な負荷をかける動作 |
術後の日常生活:具体的な注意点

睡眠
術後6週間は仰向け寝が基本です。RSAの場合、うつ伏せ・横向き(手術側を下にする)は禁忌です。枕の位置を調整し、肩が後方に落ちないようにします。痛みがある間は手術していない側を下にした横向きでも構いませんが、手術側の肩が伸展位にならないよう注意します。
入浴
術後傷口が閉じるまでの2週間程度はシャワーのみです。浴槽への入浴は術後3〜4週間以降、医師の許可を得てから。浴室は転倒リスクが高いため、手すりの設置や滑り止めマットの使用を強くお勧めします。
衣服の着脱
前開きのシャツ・ワンピースが着脱しやすくお勧めです。袖を通す際は手術した側の腕から先に通すのが基本です。RSAで結滞動作が禁忌の間は、後ろのファスナー・帯を自分で閉める動作は避け、家族の助けを借りてください。
自動車運転
一般的に術後3ヶ月以降、医師の許可を得てから再開します。ハンドル操作・シートベルトの装着動作が禁忌肢位にならないかを確認してから再開してください。
スポーツ・趣味
ウォーキング・水中ウォーキングは術後1ヶ月程度から開始できます。ゴルフ・テニス・水泳など肩を大きく使うスポーツは術後6ヶ月以降が目安です。重いものを持ち上げる・強い衝撃がかかるスポーツは、インプラントの耐用年数を縮める可能性があるため、生涯にわたって避けることが理想的です。

人工肩関節の耐用年数と再手術のリスク

人工肩関節の耐用年数は一般的に15〜20年とされています。
ただし、以下の要因によって早期にインプラントの緩み・摩耗が生じ、再置換術(入れ替え手術)が必要になることがあります。
体重が重い(関節への負荷が増加する)
重労働・重いものを繰り返し持ち上げる生活
転倒によるインプラント周囲骨折
深部感染(インプラントに細菌が付着した場合)
耐用年数の問題から、比較的若年(60歳未満)の患者さんには手術を慎重に検討することが推奨されます。将来的な再置換術のリスクを考慮すると、できるだけ長く手術を先延ばしにしながら保存療法・再生医療で痛みをコントロールする戦略が有効なことがあります。肩の再生医療については肩腱板断裂・肩の痛みに対する再生医療(幹細胞治療):手術を避ける「切らない」治療法をご覧ください。
「手術前に知っておくべきこと」:整形外科医からの正直なメッセージ
手術を決断する前に必ず確認していただきたいことをお伝えします。
1. 保存療法を十分に試しましたか?
人工関節置換術は不可逆的な手術です。ステロイド注射・ヒアルロン酸注射・理学療法・鎮痛薬の最適化を十分に行っても改善しなかった場合に初めて手術を検討すべきです。
2. 術後の可動域に過度な期待を持っていませんか?
人工肩関節置換術後に得られる可動域は、術前の腱板の状態に大きく依存します。
特にRSAは挙上動作(前に腕を上げる)の改善は期待できますが、結滞動作(手を背中に回す)の回復は限定的であることを理解してください。
3. 「手術しない選択肢」を検討しましたか?
腱板断裂性関節症であっても、痛みの程度・日常生活への支障が許容できる範囲であれば、急いで手術しなくてよいケースがあります。再生医療(幹細胞治療・PRP)で症状をコントロールしながら手術を先延ばしにすることで、インプラントの耐用年数を最大限に活かすという戦略もあります。
腱板断裂に対する手術の実態については腱板断裂の手術とは?後悔しないためのリスク・再断裂・手術しない選択肢を徹底解説もあわせてご覧ください。
解剖学的TSA vs リバース型RSA:どちらを選ぶべきか

「どちらの手術になるかは医師が決める」とは言っても、患者さんとしてその判断基準を理解しておくことは重要です。元執刀医として、この選択に影響する主な要因を整理します。
腱板の状態が最大の決定因子
シンプルに言うと、腱板が使えるかどうかが術式選択の最大の分岐点です。MRIで腱板の残存量を評価し、修復可能であればTSA、修復不能であればRSAを選択するのが基本原則です。ただし「修復不能」の判断には術者の経験と術中所見が必要であり、術前の計画通りにならない場合もあります。
年齢と活動性のバランス
RSAは原則70歳以上が適応基準とされていますが、腱板断裂性関節症に対しては年齢を問わず適応になるケースがあります。一方、若年・活動性の高い患者さんでは、RSAのインプラントの耐用年数を考えると、できるだけ長く保存療法で引き延ばすことが長期的に賢明な選択になることもあります。
術後の目標動作の違い
目標動作 | TSAの期待値 | RSAの期待値 |
|---|---|---|
腕を前に上げる(前方挙上) | ◎ 高い改善 | ◎ 高い改善(三角筋で代償) |
横に腕を上げる(外転) | ○ 改善 | ○ 改善 |
外旋(腕を外に回す) | ○ 改善 | △ 限定的 |
結滞動作(手を背中に回す) | ○ 改善 | △ 限定的(術後長期禁忌も) |
力仕事・スポーツ | △ 制限あり | × 原則禁止 |
RSAは「挙上ができるようになる」という点では非常に優れた術式ですが、結滞動作の回復は限定的です。「術後に手が背中に届くようにしたい」という希望がある場合、術前にその可能性を十分に主治医と話し合っておくことが重要です。
人工肩関節置換術後の合併症:知っておくべきリスク
手術を検討するうえで、合併症のリスクを正確に理解することは患者さんの権利です。主な合併症とその頻度・対処を整理します。
合併症 | 頻度の目安 | 対処 |
|---|---|---|
脱臼 | TSA:1〜2% RSA:2〜5% | 整復術(麻酔下)。繰り返す場合は再手術 |
感染(深部) | 1〜2% | デブリードマン(洗浄手術)・インプラント抜去の可能性 |
インプラントの緩み・摩耗 | 10〜15年後に増加 | 再置換術(入れ替え手術) |
腋窩神経損傷 | まれ(1%未満) | 三角筋の筋力低下→リハビリで改善を目指す |
骨折(インプラント周囲) | まれ(転倒時) | 保存療法または再手術 |
関節窩コンポーネントの緩み(TSA) | 長期的な懸念 | 再置換術の検討 |
脱臼は術後早期(特に術後3〜6週間)に最も多く発生します。
禁忌肢位の厳守が最大の予防策です。深部感染は発生率は低いですが、歯科治療・内視鏡検査・他の手術を受ける際に抗生剤の予防投与が必要になることがあります。インプラントを入れていることを医療機関に必ず伝えてください。
「手術しない」という選択肢を最大限に活かすために
人工肩関節置換術は多くの患者さんに痛みの除去と機能改善をもたらす有効な治療ですが、同時に不可逆的な手術であり、合併症リスク・インプラントの耐用年数という制約も持ちます。
整形外科医として強調したいのは、「手術が必要になる日を少しでも先延ばしにする」という戦略の価値です。
特に60歳未満の方がRSAを受けた場合、80代に再置換術が必要になる可能性があります。再置換術は初回手術より難易度が高く、合併症リスクも上がります。
再生医療(幹細胞治療・PRP)は軟骨の修復と炎症の抑制により、腱板断裂性関節症の症状を緩和しながら手術を先延ばしにできる可能性があります。「手術はいつでもできる。でも今すぐしなくてもよいかもしれない」という判断を、再生医療専門の整形外科医に相談してみることも一つの選択肢です。
シンセルクリニックで再生医療を受けられた方のインタビュー動画
肩の再生医療については肩腱板断裂・肩の痛みに対する再生医療(幹細胞治療):手術を避ける「切らない」治療法で詳しく解説しています。シンセルクリニックでは「手術前に一度だけ再生医療の可能性を確認したい」というご相談も歓迎しています。

よくある質問(FAQ)
人工肩関節の手術時間・入院費用はどのくらいですか?
手術時間はTSAで1〜2時間、RSAで2〜3時間が目安です。入院期間は2〜4週間。費用は保険適用(3割負担)で、インプラント代・入院費・リハビリ費用を合わせて30〜60万円前後が一般的な目安です(施設・術式・入院期間によって異なります)。
術後はどのくらいで腕が上がるようになりますか?
TSAでは術後3〜6ヶ月かけて挙上動作が改善します。RSAでは三角筋の再教育が必要なため、術後6ヶ月〜1年をかけて徐々に改善することが多いです。術前の腱板の状態・年齢・リハビリへの取り組みによって個人差が大きいため、担当医に具体的な目標を確認することをお勧めします。
反対側の肩も悪い場合、両側同時に手術できますか?
一般的に両側同時手術は行いません。片側の術後は腕が使えない期間が生じるため、日常生活の補助が困難になります。まず症状が重い側から手術し、十分な回復を確認してから反対側を検討します。
RSAの術後、結滞動作は一生できませんか?
術後6週間の絶対禁忌期間を過ぎると、軟部組織の安定に伴い段階的に可動域が拡大します。術後3〜6ヶ月でリハビリが進むと一定の内旋・結滞動作が可能になるケースもありますが、術前と同等の可動域を期待することは難しいです。担当のリハビリ専門家の指示に従って進めてください。
手術を受ける施設の選び方:整形外科医が教えるチェックポイント
人工肩関節置換術、特にリバース型(RSA)は、日本整形外科学会が定める要件を満たした認定医・認定施設でしか実施できない高度な手術です。施設を選ぶ際の確認ポイントを整理します。
RSA認定施設であるかどうか
RSAは「肩の手術経験が累計100例以上(鎖骨骨折を除く)、かつ50例以上の腱板手術を行っている医師」に限定されています。施設の実績を事前に確認することが重要です。年間手術件数が少ない施設では、術者の経験が蓄積されにくいため、可能であれば年間50例以上の実績がある施設への受診をお勧めします。
リハビリ体制が充実しているか
人工肩関節置換術後の成績は、術後リハビリの質に大きく依存します。術後から専門の理学療法士が関与できる体制・退院後の外来リハビリが継続できる体制があるかを入院前に確認しておきましょう。
セカンドオピニオンを活用する
「手術しかない」と言われた場合も、他院の整形外科専門医にセカンドオピニオンを求めることは患者さんの権利です。特に腱板の状態・術式の選択・手術時期については、術者によって判断が異なる場合があります。シンセルクリニックでは「手術を決断する前に再生医療の選択肢も含めて相談したい」というセカンドオピニオン的な相談も受け付けています。
腱板断裂から人工肩関節置換術に至る経過:早期対応の重要性
多くの患者さんは「腱板断裂→保存療法→効果なし→手術」というルートで人工肩関節置換術に至ります。しかし腱板断裂を長期間放置すると、腱板断裂性関節症(CTA)に進行し、より難易度の高いRSAが必要になります。
腱板断裂の段階でPRP・再生医療などの早期介入を行うことで、関節症への進行を遅らせ、人工肩関節置換術まで手術を延期できる可能性があります。腱板断裂の早期発見・早期対応については腱板断裂で「絶対にやってはいけないこと」5選と腱板断裂を放置するとどうなる?自然治癒は?をあわせてご覧ください。
腱板断裂のリハビリについては腱板断裂のリハビリ完全ガイド|保存療法・術後のスケジュールから「第3の選択肢」再生医療までも参考にしてください。
なお、上腕二頭筋長頭腱炎など肩関節周辺の腱・筋肉の問題が人工肩関節置換術に至る前段階として合併していることがあります。こうした合併症については上腕二頭筋長頭腱炎の症状・治し方|やってはいけないこと・ストレッチ・寝方も参考にしてください。また肩関節の日常的なケアとして整形外科医が教える肩のストレッチを術後のホームエクササイズに取り入れることで、機能回復を促進できます。
まとめ
人工肩関節置換術は「BSA(骨頭のみ)」「TSA(解剖学的型)」「RSA(リバース型)」の3種類がある
腱板の機能が残っている場合はTSA、修復不能な腱板断裂にはRSAが適応
禁忌肢位はRSAで特に厳重。結滞動作(手を背中に回す)は術後6週間の絶対禁忌
リハビリは4フェーズ(関節保護期→可動域拡大期→機能獲得期→自主訓練期)で進む
術後3ヶ月で日常生活に支障がないレベル、術後6ヶ月で挙上動作の獲得が目安
インプラントの耐用年数は15〜20年。重いものを持つ・衝撃的スポーツは生涯にわたって制限が理想
比較的若年の患者さんは手術前に保存療法・再生医療での管理を十分に検討することが重要
「人工肩関節置換術を勧められているが、手術以外の選択肢があるか確認したい」「術後の生活について整形外科医に相談したい」という方は、シンセルクリニックにお気軽にご相談ください。MRIをお持ちでない方でも初回カウンセリングを承っています。
関連コラム
参考文献
日本整形外科学会「人工肩関節置換術(リバース型)適正使用ガイドライン」https://www.joa.or.jp/
Frankle M, et al. "The Reverse Shoulder Prosthesis for Glenohumeral Arthritis Associated with Severe Rotator Cuff Deficiency." Journal of Bone and Joint Surgery. 2005;87(8):1697-1705.
Watanabe A, et al. "Reverse total shoulder arthroplasty in Japan: indications and surgical outcomes." Journal of Shoulder and Elbow Surgery. 2017;26(10):1752-1758. https://doi.org/10.1016/j.jse.2017.02.027
Bacle G, et al. "Long-term outcomes of reverse total shoulder arthroplasty: a follow-up of a previous case series." Journal of Bone and Joint Surgery. 2017;99(6):454-461.
岩崎倫政「人工肩関節置換術とそのリハビリテーション」日本リハビリテーション医学会誌. 2017;54(3):182-189. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/54/3/54_182/_pdf
院長監修記事

武内 晋司郎
(たけうち しんじろう)
シンセルクリニック総院長
三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。
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三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。
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