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【整形外科医解説】股関節に水がたまる原因・やってはいけないこと|抜く必要はある?
「股関節に水がたまっていますよ」と言われ、その後どうすればいいかわからない——外来でそういった相談を非常に多くいただきます。
「水を抜くと癖になる」「放置してもいいのか」「手術しかないのか」という疑問を抱えたまま、不安な日々を送っている方がたくさんいらっしゃいます。
この記事では、整形外科の医師の立場から、股関節に水がたまる本当の原因・やってはいけないこと・水を抜く必要があるかどうか、そして水が繰り返したまる場合に考えるべき次の選択肢まで、順を追って解説します。
- 股関節に水がたまるとはどういう状態か
- 股関節に水がたまる原因一覧(疾患別)
- ①変形性股関節症(最多)
- ②股関節唇損傷
- ③関節リウマチ
- ④大腿骨頭壊死症(だいたいこつとうえし)
- ⑤化膿性股関節炎
- ⑥単純性股関節炎(子どもに多い)
- 症状チェックリスト|こんなサインは要注意
- やってはいけないこと5選
- ①「動かないほうがいい」と思って完全安静にする
- ②痛みを無視して無理に動く
- ③「水を抜くと癖になる」という迷信を信じて受診しない
- ④強いストレッチや股関節への深い屈曲動作
- ⑤自己判断で痛み止めだけ飲み続け経過観察する
- 水を抜く必要はある?整形外科医の判断基準
- 膝と股関節で「水を抜く」が違う理由
- 水が繰り返したまる場合に考えること
- 再生医療という選択肢
- 再生医療に期待される2つの効果
- メスを使わない日帰り治療
- まとめ|手術の前に知っておきたいこと
- 参考文献
股関節に水がたまるとはどういう状態か

股関節は、骨盤の臼蓋(きゅうがい)と大腿骨頭がぴったりはまり合った、体の中で最も大きな関節です。この関節の内部は「関節包」という袋に包まれており、その中に「関節液(滑液)」と呼ばれる液体が少量(通常は1〜3ml程度)存在しています。
関節液は潤滑油の役割を果たすとともに、軟骨に酸素や栄養を届ける働きもあります。ところが、股関節に炎症が起きると、滑膜(かつまく)という組織が過剰に関節液を産生し始めます。産生量が吸収量を上回ると、関節内に液体が溜まっていく——これが「股関節に水がたまる(関節水腫)」という状態です。
医学的には「関節水腫(かんせつすいしゅ)」と呼ばれます。水そのものが問題ではなく、水がたまることは「関節の中で何らかの炎症が起きているサイン」として捉えることが重要です。
関連コラム:【医師解説】股関節はどこ?図解と「部位別」の痛みの原因。前・横・後ろが痛いのはなぜ?
股関節に水がたまる原因一覧(疾患別)
股関節に水がたまる原因は一つではありません。外来で実際に多く見られる疾患を中心に解説します。
①変形性股関節症(最多)
股関節に水がたまる原因として最も多く見られるのが変形性股関節症です。軟骨がすり減ることで骨同士が直接摩擦し、炎症が慢性的に起きます。この炎症が滑膜を刺激し続けることで、関節液の産生が過剰になります。
特に日本人女性では、生まれつき臼蓋が浅い「臼蓋形成不全」を背景に発症するケースが約8割を占めており、40〜60代に多く見られます。
関連コラム:変形性股関節症とは?症状から治し方まで整形外科医が徹底解説
関連コラム:【医師解説】臼蓋形成不全とは?股関節の痛みの原因と「手術を避ける」ための治療法
②股関節唇損傷
股関節の縁を取り巻く軟骨様の組織「股関節唇(こかんせつしん)」が断裂・損傷すると、関節内に炎症が生じて水がたまります。スポーツ選手や若年層に多く、「クリック音がする」「引っかかる感じがある」という症状を伴うことがあります。
関連コラム:【整形外科医監修】股関節唇損傷とは?「やってはいけない」ストレッチと手術回避の治療法を徹底解説
③関節リウマチ
免疫の異常によって滑膜に持続的な炎症が生じる自己免疫疾患です。両側の股関節に水がたまることが多く、朝のこわばりや微熱・倦怠感を伴う場合はリウマチを疑います。採血でリウマチ因子(RF)や抗CCP抗体を確認することで診断されます。
④大腿骨頭壊死症(だいたいこつとうえし)
大腿骨頭への血流が途絶え、骨が壊死する病気です。ステロイド薬の長期使用や過度の飲酒がリスク因子として知られています。壊死した部位が潰れるタイミングで急激な痛みが起き、水がたまることがあります。MRI検査で早期に診断することが重要です。
関連コラム:【医師解説】股関節の痛みは特発性大腿骨頭壊死症かも?原因・初期症状と治療方法とは
⑤化膿性股関節炎
細菌が関節内に侵入して起こる感染性の炎症です。高熱・股関節の強い腫れ・激しい痛みが特徴で、緊急性が高い状態です。放置すると関節が破壊されるため、早急な入院・手術的洗浄が必要になります。
⑥単純性股関節炎(子どもに多い)
ウイルス感染(風邪など)をきっかけに一過性に起こる滑膜炎で、3〜10歳の男児に多く見られます。発熱はほとんどなく、エコー検査で関節水腫を確認します。通常は1〜2週間の安静で自然に回復します。
症状チェックリスト|こんなサインは要注意
以下の症状が複数当てはまる場合、股関節に水がたまっている可能性があります。
股関節の周囲に重だるさや張り感がある
靴下を履く・正座をする・あぐらをかく動作が困難
歩き始めに痛みや違和感があり、しばらく歩くと和らぐ
足を開いたり内側に回したりすると痛い
片足を引きずるように歩くことがある
股関節から「コキッ」というクリック音がする
長時間の歩行や立ち仕事で痛みが増す
就寝中や朝起き上がるときに痛みがある
特に高熱・激しい痛み・夜間も強い痛みが続く場合は化膿性股関節炎の可能性があり、直ちに整形外科を受診してください。
関連コラム:【整形外科医解説】股関節が右だけ・左だけ痛い原因|痛むタイミング別の5疾患と対処法・女性に多い理由
やってはいけないこと5選

股関節に水がたまっているときに多くの患者さんがやりがちで、かつ症状を悪化させる行動を整理しました。
①「動かないほうがいい」と思って完全安静にする
安静にしすぎると、股関節周囲の筋力が急速に低下します。筋力が落ちると関節への負担がさらに増え、炎症が繰り返されやすくなります。痛みが強い時期は「過剰な負荷をかけない」ことは大切ですが、寝たきりや動かない状態が長く続くことは避けてください。
②痛みを無視して無理に動く
反対に、「痛くても動かせば治る」と思って長時間歩行や激しい運動を続けるのも逆効果です。炎症が収まっていない状態で負荷をかけ続けると、滑膜の刺激が持続し、水がたまる状態が長引きます。
③「水を抜くと癖になる」という迷信を信じて受診しない
水を抜くと癖になるという話は誤りです。水が繰り返したまるのは「抜いたから」ではなく、「炎症の原因が取り除かれていないから」です。水を抜くことで痛みが楽になり、関節の動きが改善するとともに、抜いた関節液を検査することで原因を特定できるメリットもあります。受診を先延ばしにすることで関節の変形が進む可能性があります。
④強いストレッチや股関節への深い屈曲動作
炎症がある状態で股関節を強制的に深く曲げたり、痛みを感じながらストレッチを行うと、炎症が悪化します。特に変形性股関節症や股関節唇損傷では、深屈曲・内旋動作が負担になりやすいです。
関連コラム:【整形外科医解説】変形性股関節症でやってはいけないこと10選|座り方・スクワット・寝方・自転車の正解
⑤自己判断で痛み止めだけ飲み続け経過観察する
市販の痛み止めで痛みを抑えながら放置することは、原因疾患の進行を見逃すリスクがあります。特に大腿骨頭壊死症や化膿性股関節炎は早期介入が予後を大きく左右します。症状が2週間以上続く場合は整形外科を受診してください。
水を抜く必要はある?整形外科医の判断基準

外来でよく聞かれる質問です。結論から言えば、「水の量と症状の程度」によって判断が変わります。
少量の水がたまっている場合は、炎症が落ち着けば自然に吸収されることも多く、必ずしも抜く必要はありません。一方で、以下のような状況では穿刺(水を抜く処置)を検討します。
水の量が多く、股関節の動きが著しく制限されている
水による内圧で痛みが強く、日常生活に支障がある
感染(化膿性股関節炎)や腫瘍性疾患を除外するための検査が必要
関節液の性状(色・粘稠度)で原因を鑑別したい場合
水を抜いた後は、炎症の原因治療を並行して行うことが再貯留を防ぐうえで不可欠です。「水だけ抜いて終わり」では根本的な解決になりません。
膝と股関節で「水を抜く」が違う理由

「膝の水は抜きやすいのに、股関節は難しい」という話を患者さんからよく聞きます。これには解剖学的な理由があります。
膝関節は皮膚の直下に関節包があり、水がたまると「お皿の上がパンパン」という状態が視覚・触診でわかりやすく、比較的容易に穿刺できます。
一方、股関節は関節が体の深部にあり、大臀筋・腸腰筋などの分厚い筋肉に覆われています。そのため穿刺には超音波(エコー)ガイド下での誘導が必要なことが多く、皮膚から関節包まで5〜10cmの深さがある場合もあります。また水がたまっていても外見上わかりにくいため、エコーやMRIによる画像確認が診断に欠かせません。
股関節に水がたまっていると疑われる場合は、必ず整形外科でエコーまたはMRI検査を受けることを推奨します。
水が繰り返したまる場合に考えること
注射で水を抜いても、1〜2か月後にまた同じ量の水がたまる——この繰り返しに悩んでいる方は少なくありません。
水が繰り返したまる最大の理由は、「炎症の原因そのもの(軟骨の損傷・滑膜の慢性炎症)が解決されていない」からです。炎症の種火が残っている限り、水を抜いても滑膜はまた関節液を過剰産生します。
この場合、治療の選択肢として以下が検討されます。
ヒアルロン酸注射(関節への潤滑・炎症抑制)
ステロイド注射(強力な抗炎症効果・頻回使用は避ける)
リハビリテーション(股関節周囲の筋力強化・荷重バランスの改善)
体重管理(1kgの体重減少で股関節への負担が数kg単位で軽減)
再生医療(PRP-FD注射・幹細胞治療)
再生医療という選択肢
ご自身の腹部の脂肪から採取した「幹細胞」を培養して増やし、傷んで動きが悪くなった股関節内に直接注射する最先端の治療です。
再生医療に期待される2つの効果
強力な抗炎症作用で痛みを鎮める 関節内で長年くすぶり続けている激しい炎症を、細胞の力で抑え込みます。痛みが和らぐことで、カチカチに緊張して股関節をロックしていた筋肉や関節包が緩み、制限されていた動き(屈曲や伸展)がスムーズになる効果が期待できます。
組織の修復と環境改善 投与された細胞が傷ついた組織の修復を促し、軟骨がこれ以上すり減るのを防ぐ環境を整えます。「人工関節の手術を遅らせる、あるいは回避する」ための有効な手段として注目されています。
メスを使わない日帰り治療
人工関節の手術のように骨を切ったり金属を入れたりしないため、体への負担が極めて少ないのが特徴です。日帰りで治療が完了するため、「入院して仕事を長く休むわけにはいかない」という現役世代の方や、「手術が怖い」という方にとって、非常に有効な選択肢です。
▼あわせて読みたい
▷ 【動画】「手術しかない」と言われた股関節の痛みが改善。再生医療の体験談]



まとめ|手術の前に知っておきたいこと
股関節に水がたまる状態について、改めて重要なポイントを整理します。
水がたまること自体は「炎症のサイン」であり、原因疾患の治療が根本解決につながる
「水を抜くと癖になる」は誤り。水が繰り返したまるのは炎症の原因が残っているから
完全安静も痛みを無視した過剰運動もどちらも逆効果。適切な運動量を主治医と相談する
股関節の穿刺は膝よりも難しく、エコーガイド下での処置が必要なことが多い
水が繰り返したまる場合は、再生医療による根本的な炎症・軟骨損傷へのアプローチが有効な可能性がある
「手術を勧められたけれど、まだ決断できない」という方は、再生医療を専門とする整形外科の医師に一度ご相談ください。人工股関節への置換を先延ばしにできる可能性があります。
関連コラム:【医師監修】股関節の痛みを放置(ほっとく)とどうなる?進行リスクと見逃されやすい原因疾患
関連コラム:【医師監修】股関節が劇的に柔らかくなるストレッチ5選。痛いのに無理に伸ばしていませんか?
参考文献
Conaghan PG, et al. "Synovitis, joint effusion and other pathologies in hip osteoarthritis." Rheumatology. 2023. https://doi.org/10.1093/rheumatology/kead001
Bannuru RR, et al. "OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis." Osteoarthritis Cartilage. 2019;27(11):1578-1589. https://doi.org/10.1016/j.joca.2019.06.011
院長監修記事

武内 晋司郎
(たけうち しんじろう)
シンセルクリニック総院長
三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。
医師プロフィールはこちら
三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。
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