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【医師監修】腸腰筋とは?場所・働き・硬いと弱いで起きること|腰痛や脚の付け根の痛みとの関係を整形外科の医師が解説

2026.09.29

「腸腰筋が硬いと言われたけれど、どこにある筋肉なのか、自分ではさっぱりわからない」

「デスクワークが続くと、腰から脚の付け根にかけて重だるくなる。年のせいだろうか」

腸腰筋(ちょうようきん)は、名前を聞く機会は多いのに、場所も働きも意外と知られていない筋肉です。おなかの奥にあり、体の表面から触れることができないため、「どこが痛いのか」「硬いのか、弱いのか」がわかりにくいのも特徴です。ご自身の腰や脚の付け根の痛みと関係があるのか、あるいは高齢のご両親の歩き方が気になって調べている、という方も多いと思います。

この記事では、シンセルクリニック総院長で整形外科の医師である武内晋司郎が、腸腰筋の場所と働き、硬いとき・弱いときに起きること、腸腰筋が原因の痛みの特徴とセルフチェック、腸腰筋の痛みに隠れている病気、そして受診の目安を解説します。ストレッチの具体的なやり方は別の記事で詳しく解説していますので、この記事では「そもそも自分の腸腰筋はどんな状態なのか」を見極める視点を中心にお伝えします。

この記事の結論

  • 腸腰筋は、大腰筋・腸骨筋(と、人によって小腰筋)の総称。背骨から骨盤の内側を通って太ももの骨につながる、体の奥にある「脚を持ち上げる筋肉」

  • 座りっぱなしで縮んだまま硬くなると腰や脚の付け根がつらくなり、加齢や運動不足で弱ると歩幅が狭くなり、つまずきやすくなる

  • 腰痛と腸腰筋の筋量に関係があるという研究は増えているが、「腸腰筋を鍛えれば腰痛が治る」と言い切れる段階ではない

  • 脚の付け根の痛みは、腸腰筋の問題だと決めつけない。発熱を伴う場合の腸腰筋膿瘍、股関節唇損傷、変形性股関節症、腰椎の病気が隠れていることがある

  • 「ゆるめるか、鍛えるか」は今の状態で決まる。硬さが強いならゆるめる、弱っているなら鍛える。迷うときは自己流で続けず受診を

腸腰筋とは?場所と、大腰筋・腸骨筋・小腰筋の違い

腸腰筋とは?場所と、大腰筋・腸骨筋・小腰筋の違い

腸腰筋は、1つの筋肉の名前ではなく、複数の筋肉をまとめた呼び名です。背骨(腰椎)から始まる筋肉と、骨盤の内側から始まる筋肉が途中で合流し、1本の腱になって太ももの骨(大腿骨)の内側にある出っ張り(小転子)に付きます。

筋肉

始まる場所

特徴

大腰筋(だいようきん)

背骨の胸と腰の境目あたりから腰椎の側面

腸腰筋の中心。背骨と脚を直接つなぐ、人体で唯一の筋肉といわれる

腸骨筋(ちょうこつきん)

骨盤(腸骨)の内側のくぼみ

骨盤の内側に広がる扇形の筋肉。大腰筋と合流して太ももへ

小腰筋(しょうようきん)

腰椎の側面

大腰筋の前にある細い筋肉。持たない方も少なくない

腸腰筋は、おなかの内臓の後ろ側、背骨の両脇から骨盤の内側を通って脚の付け根の前を越えていきます。つまり、体の表面から直接触ることができない深い場所にあります。腹筋や太ももの筋肉のように「ここが硬い」と自分で押して確かめられないのは、このためです。

股関節との位置関係

腸腰筋の腱は、股関節の前面を横切って走っています。股関節そのものの構造や場所は、次の記事で解説しています。

▶ 股関節はどこにある?場所と仕組み
▶ 股関節の動き(屈曲・伸展・内旋・外旋)

【武内院長のコメント】
「患者さんに腸腰筋の場所をご説明するとき、私は"おへその両脇の奥から、脚の付け根を通って、太ももの内側につながっている筋肉です"とお話しします。手で触れないので、ほとんどの方が『そんな場所にあるのか』と驚かれます。触れないからこそ、硬いか弱いかは自己判断が難しく、診察で動きを見て判断することになります。」

腸腰筋の働きと、弱くなると起きること

腸腰筋の働きと、弱くなると起きること

腸腰筋のいちばん大きな働きは、股関節を曲げること、つまり太ももを引き上げることです。歩くとき、脚を前に振り出す最初の動きは、腸腰筋が担っています。階段を上る、椅子から立ち上がる、床の物をまたぐ、といった動作でも常に使われます。

働き

具体的な場面

脚を持ち上げる

歩く、階段を上がる、段差をまたぐ

上体を前に引き寄せる

仰向けから起き上がる、椅子から立ち上がる

腰椎を支える

立つ・座る姿勢を保つ(背骨を前後から支えるインナーマッスルのひとつ)

骨盤の傾きを保つ

骨盤が前に倒れる・後ろに倒れるのを調整する

▶ ウォーキングの効果と正しい歩き方

腸腰筋が弱くなると起きること

年齢を重ねると、腸腰筋も少しずつ細く、弱くなります。腸腰筋が弱くなると、次のような変化が起こりやすくなります。

  • 歩幅が狭くなる:脚が前に出にくく、小刻みな歩き方になる

  • すり足になる:脚が十分に上がらず、足の裏が地面をこするような歩き方になる

  • つまずきやすくなる:わずかな段差や絨毯の端、玄関の上がり框で足が引っかかる

  • 階段がつらくなる:特に上りで、手すりに頼るようになる

  • 姿勢が丸くなる:背骨を支える力が落ち、前かがみが強くなる

これらは「年だから仕方ない」と見過ごされがちですが、転倒や骨折につながるきっかけになります。

筋肉の量と腰痛の関係|研究でわかっていること

腸腰筋の中心である大腰筋は、背骨を安定させる筋肉のひとつです。腰痛との関係を調べた研究がいくつかあります。

  • 片側の腰痛が12週間以上続く患者50人を調べたイギリスの研究では、痛いほうの大腰筋の断面積が反対側より小さく、その差は痛みの強さ、神経の圧迫の報告、症状の続いた期間と相関していました(Barkerら、2004年)。著者らは、今後は大腰筋を選んで鍛える運動の研究が課題だとしています

  • 腰痛患者94人の腰のMRIを調べたイタリアの研究では、大腰筋の面積が大きいほど、痛みが軽い傾向がありました(Mallioら、2024年)

  • 45歳以上の慢性腰痛の人を調べた中国の研究では、大腰筋の指数(筋肉の断面積を身長で補正した値)が、腰痛のない人より有意に低いと報告されています(Zhangら、2025年)

ただし、これらはある時点のデータを比べた観察研究です。「腸腰筋が細いから腰痛になった」のか、「腰が痛くて動かなくなったから腸腰筋が細くなった」のか、原因と結果はこれだけでは決められません。「腸腰筋を鍛えれば腰痛が治る」と保証できる根拠は、まだ十分にそろっていません。

【武内院長のコメント】
「腰痛の診察では、背骨の画像だけでなく、脚の上がり方や歩き方を必ず見ます。腰が悪いと思って来られた70代の患者さんが、実は脚が上がらなくなっていて、腰をかばう歩き方になっていた、ということが少なくありません。腸腰筋の衰えは、痛みとして自覚しにくい分、気づいたときにはすり足になっている。その手前で気づけるかどうかが分かれ道だと感じています。」

腸腰筋が硬くなると起きること|反り腰・腰痛・脚の付け根の痛み

腸腰筋が硬くなると起きること|反り腰・腰痛・脚の付け根の痛み

腸腰筋が弱くなるのとは反対に、縮んだまま硬くなることも、現代の生活では多く見られます。原因は、長時間座る姿勢です。椅子に座ると、股関節は曲がった状態で固定されます。この姿勢が1日に何時間も続くと、股関節を曲げる筋肉である腸腰筋は縮んだ状態が習慣になり、立ち上がったときに十分に伸びなくなります。

腸腰筋が硬いと起きやすいこと

症状

なぜ起きると考えられるか

立っていると腰が反る・腰が重い

硬くなった腸腰筋が、背骨を前に引っ張り、骨盤を前に倒すため(いわゆる反り腰)

立ち仕事や歩き始めの腰痛

腰椎が引っ張られたまま、支える筋肉に負担が続くため

脚の付け根(鼠径部)の前側のつっぱり・痛み

股関節の前を通る腸腰筋の腱に、常に張力がかかるため

脚を後ろに引きにくい・歩幅が伸びない

股関節を後ろへ伸ばす動きが、腸腰筋の硬さで制限されるため

股関節を曲げ伸ばしするときの引っかかり感

腸腰筋の腱が骨の出っ張りの上を滑りにくくなるため

腰痛の原因は筋肉だけではありません。筋肉や筋膜に由来する腰痛の考え方は、次の記事で詳しく解説しています。

▶ 腰痛の原因と治療
▶ 筋膜性腰痛症とは?

「反り腰=腸腰筋が硬い」とは限らない

インターネットでは「反り腰の原因は腸腰筋の硬さ」と断定した説明を見かけますが、これは単純ではありません。先ほどの中国の研究では、慢性腰痛の人では大腰筋の指数が低いだけでなく、腰椎の前弯(前へのカーブ)の角度もむしろ小さいという結果でした。しかも、この研究では大腰筋の指数と前弯角のあいだに相関は見られなかったと報告されています(Zhangら、2025年)。

反り腰かどうか、腰のカーブが強いか弱いかは、腸腰筋だけで決まるものではありません。腹筋やお尻の筋肉、背中の筋肉、骨盤の傾き、加齢による背骨の変化など、複数の要素が関わります。「反っているから腸腰筋が硬い」と決めつけず、実際に動きを確認することが大切です。

腸腰筋の筋膜に働きかける方法の研究

腸腰筋を含む筋膜への徒手的な介入について、慢性腰痛の患者42人(20〜50歳)を対象にしたランダム化比較試験があります。従来の理学療法に加えて、横隔膜と腸腰筋の筋膜リリースを行った群では、偽の施術を行った群と比べて痛みが減り、腰の可動域や柔軟性が改善したと報告されています(Sığlanら、2023年)。ただし、対象は若い年代で人数も少なく、腸腰筋だけの効果は切り分けられません。

【武内院長のコメント】
「デスクワークの方が『腰が反って痛い』と言って来られたとき、"腸腰筋が硬いから、伸ばせばいい"と即答することはしません。反っているのが硬さのせいなのか、腹筋やお尻の筋力が足りないのか、背骨そのものが変化しているのか。原因が違えば、やるべきことが正反対になるからです。よかれと思って始めたストレッチが、かえって腰に負担をかけていることもあります。」

コルセットの使い方や、避けたほうがよいストレッチについては、次の記事もあわせてご覧ください。
▶ 腰痛コルセットの選び方と使い方
▶ 腰痛のときに避けたいストレッチ

腸腰筋が原因の痛みの特徴と、自分でできるセルフチェック

腸腰筋が原因の痛みの特徴と、自分でできるセルフチェック

腸腰筋そのものに原因がある痛みには、いくつかの特徴があります。次の表で、当てはまるものを確認してみてください。

特徴

内容

痛む場所

脚の付け根の前側から下腹部の下のほう、腰の下部。片側に出ることが多い

悪くなる動き

脚を高く上げる、階段を上る、長く座ったあとに立ち上がる、脚を後ろに引く

楽になる姿勢

膝を曲げて横向きに寝る、椅子に浅く座る

痛みの質

深いところの重だるさ、つっぱり。ズキッと鋭い痛みや、じっとしていても続く痛みは別の原因も疑う

安静時・夜間

動作に関係する痛みが中心。じっとしていても強く痛む、熱がある場合は別の病気を考える

トーマステスト(腸腰筋の硬さの目安)

トーマステスト(腸腰筋の硬さの目安)

腸腰筋が硬いかどうかを確かめる方法として、整形外科でも使われる「トーマステスト」があります。ご自宅でも簡単な形で試すことができます。あくまで目安であり、診断ではありません。

  1. 硬めのベッドや床の端で、仰向けに寝ます。お尻の位置は端のぎりぎりにします

  2. 片方の膝を両手で抱えて、胸に近づけます。腰が床から浮かないように、腰を平らにします

  3. 反対の脚は力を抜いて、ベッドの端から自然に垂らします

  4. このとき、垂らした脚の太ももが浮き上がったり、膝が伸びてすねが前に出たりしていれば、垂らしたほうの脚の腸腰筋などが硬い可能性があります

  5. 反対の脚でも同じように確認します

ただし、痛みが強いとき、腰や股関節に持病があるとき、抱えた膝を胸に引きつけるのが痛いときは無理に行わないでください。太ももの前側の別の筋肉の硬さでも同じ結果になることがあるため、左右差が手がかりです。

脚の付け根や太ももの痛みは、場所によって原因が異なります。次の記事も参考にしてください。

▶ 脚の付け根(鼠径部)が痛い原因
▶ 股関節が片側だけ痛い原因
▶ 太ももが痛い原因を部位別に解説

【武内院長のコメント】
「トーマステストは、私も外来で毎日のように行います。大切なのは、硬さの数値ではなく左右差です。右は問題なく、左だけ太ももが浮く。そういう方は、左の脚の付け根や腰に、何かしらの症状を抱えていることが多い。ご自宅で試すときは、痛みが出たらすぐやめてください。試して痛いという事実そのものが、受診の大事な情報になります。」

腸腰筋の痛みに隠れている病気|腸腰筋膿瘍・股関節の病気・腰椎の病気

腸腰筋の痛みに隠れている病気|腸腰筋膿瘍・股関節の病気・腰椎の病気

「脚の付け根が痛い」=「腸腰筋の問題」ではありません。腸腰筋のあたりの痛みは、原因となる病気が多岐にわたります。特に、治療が急がれる病気もあります。

病気

見分けるヒント

腸腰筋膿瘍(のうよう)

発熱を伴う。腰や脚の付け根の痛みで、股関節を曲げた姿勢のほうが楽で、伸ばすと痛む。歩き方が変わる

腸腰筋の出血(血腫)

血液をさらさらにする薬を飲んでいる方や、転倒・打撲のあとに、急に脚の付け根から下腹部が痛くなる

股関節唇損傷

脚の付け根の奥の痛み。深く曲げる、ひねる動きで引っかかり感、ポキッという音

変形性股関節症

立ち上がりや歩き始めの脚の付け根の痛み。足の爪が切りにくい、靴下がはきにくい

腰椎の病気(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など)

脚の付け根や太ももの前面のしびれを伴う。腰を反らすと悪化する、歩くと脚がつらくなり休むと楽になる

腸腰筋腱の炎症・弾発股

股関節を曲げ伸ばしすると、脚の付け根の前側でコキッと鳴る、引っかかる感じがある

腸腰筋膿瘍|発熱を伴う痛みは急いで受診を

腸腰筋膿瘍は、腸腰筋の中や周囲に膿がたまる病気です。背骨の感染症、腸の病気、糖尿病や免疫が低下する病気などをきっかけに起こることがあります。頻度は多くありませんが、放置すると重症化するため、見逃したくない病気です。

  • 発熱、悪寒、だるさを伴う腰・脚の付け根・下腹部の痛み

  • 股関節を伸ばすと強く痛み、膝を曲げて脚を引き寄せた姿勢をとる

  • 糖尿病がある、ステロイドや免疫を抑える薬を使っている、最近の背骨の手術や処置がある

このような症状があれば、ストレッチや整体で様子を見るのではなく、早めに医療機関を受診してください。診断には血液検査、CT、MRIなどが必要です。関節そのものの感染症については、次の記事で解説しています。

▶ 化膿性関節炎とは?

股関節の病気との見分け

股関節の病気でも、脚の付け根が痛みます。関節の中に原因がある痛みは、腸腰筋のストレッチだけでは改善しません。むしろ、関節に負担をかけて悪化させることもあります。

▶ 股関節唇損傷とは?
▶ 変形性股関節症でやってはいけないこと

腰椎の病気との見分け

腰の上のほうの神経が圧迫されると、脚の付け根や太ももの前面に痛みやしびれが出ることがあります。腸腰筋の硬さだと思っていたら、実は神経の病気だった、ということもあります。歩くと痛み、休むと楽になる場合は、脊柱管狭窄症も疑います。

▶ 腰部脊柱管狭窄症とは?
▶ 梨状筋症候群とは?
▶ 腰痛が病気のサインであるとき

【武内院長のコメント】
「脚の付け根が痛い、と来られた方に、私がまず確認するのは"熱はありませんか""血をさらさらにする薬を飲んでいませんか"という2点です。腸腰筋の病気で緊急性が高いものは、この2つの質問でかなり絞り込めます。逆に、熱がなく、動作で痛みが変わる方が大半で、そのときは筋肉・関節・腰のどこが主役かを、順番に整理していきます。」

腸腰筋は「ゆるめる」か「鍛える」か|状態別の考え方

腸腰筋は「ゆるめる」か「鍛える」か|状態別の考え方

腸腰筋について「ストレッチが大事」「筋トレが大事」と、正反対の情報が出回っています。実際には、硬くて短くなっている人はゆるめる、弱っている人は鍛えると、状態によって答えが変わります。次の表で、自分がどちらに近いか確認してください。

硬さが中心のタイプ

弱りが中心のタイプ

典型的な方

デスクワークで1日中座っている40〜60代

あまり動かなくなった70代以降、活動量の低下した方

主な症状

脚の付け根のつっぱり、腰の反り、立ち上がりの腰痛

脚が上がらない、すり足、つまずき、階段がつらい

トーマステスト

太ももが浮く・左右差がある

大きな異常が出ないことも多い

向いている方針

座り方を変える、ゆるめる

脚を引き上げる筋力を鍛える

ゆるめる:ストレッチについて

硬さが中心のタイプには、腸腰筋を伸ばすストレッチが役立つことがあります。たとえば、片膝立ちの姿勢で腰を前に出して脚の付け根の前を伸ばす方法や、仰向けで片膝を抱える方法があります。詳しいやり方、回数、痛みが出たときの中止の目安は、次の記事にまとめています。

▶ 腸腰筋ストレッチ完全ガイド

非特異的な腰痛の患者を対象にした韓国のランダム化比較試験では、股関節まわりの筋肉のストレッチを行った群も、体幹と股関節の筋力強化を行った群も、偽の施術の群より痛み、生活の支障、バランス、生活の質が改善したと報告されています。なお、腰の不安定さと股関節まわりの柔軟性は、ストレッチ群で最も改善しました(Kimら、2020年)。この研究は腸腰筋だけを対象にしたものではなく、股関節まわり全体の運動ですが、「ゆるめる」と「鍛える」のどちらも意味があることを示しています。

鍛える:脚を引き上げる筋力について

弱りが中心のタイプでは、脚を上げる動作そのものを日常で増やすことが基本です。研究では、健康な若い成人33人が、ゴムバンドを使った股関節を曲げる筋力トレーニングを1回10分、週3回、6週間続けたところ、股関節を曲げる力が17%増えたと報告されています(Thorborgら、2016年)。著者らは、腸腰筋に関連する痛みの予防や治療に役立つ可能性があるとしていますが、この研究の対象は健康な若い人で、痛みのある中高年で効果が確かめられたわけではありません。

【武内院長のコメント】
「"腸腰筋は大事だから鍛えましょう"だけでは、実は不十分です。デスクワークの50代に必要なのは、まず座りっぱなしを減らすこと。一方、歩幅が狭くなった80代の母を持つ患者さんのご家族には、脚を上げる習慣をつくることをお勧めします。同じ筋肉の話でも、処方は年代と生活で変わる。ここを間違えると、良かれと思った運動が効かないばかりか、痛みを増やしてしまいます。」

受診の目安と、整形外科でできる診察・治療

受診の目安と、整形外科でできる診察・治療

すぐに受診してほしいサイン

  • 発熱を伴う、腰や脚の付け根、下腹部の痛み

  • 血液をさらさらにする薬を飲んでいて、急に脚の付け根や下腹部が痛くなった

  • 転倒や打撲のあとから、脚の付け根が痛くて歩けない

  • 脚に力が入らない、太ももの前がしびれる

  • 夜間や安静時にも続く強い痛み、体重が理由なく減っている

早めの相談をお勧めする目安

  • ストレッチやセルフケアを2〜3週間続けても、脚の付け根や腰の痛みが変わらない、または悪化する

  • 片側だけ脚が上がらない、または脚の付け根を曲げると痛くて靴下がはきにくい

  • 親御さんの歩幅が狭くなった、つまずくことが増えた

整形外科では、問診と診察で脚の動きや痛みの出方を確認し、必要に応じてレントゲン、MRI、超音波検査、血液検査を行います。腸腰筋そのものが問題であれば、運動療法、生活での座り方の指導、痛み止めや湿布などを組み合わせます。股関節や腰の病気が見つかれば、その治療を優先します。

薬や運動で改善しない股関節の痛みに

痛みの原因が股関節の軟骨のすり減りなどにある場合で、飲み薬や注射、運動療法で十分に改善せず、手術は避けたいという方には、再生医療(幹細胞治療)という選択肢もあります。ご自身の脂肪から採取・培養した幹細胞を用い、傷んだ組織の修復と炎症の抑制を目指す治療です。自由診療であり、効果には個人差があります。すべての方に適応となる治療ではなく、適応は診察で判断します。

▶ 変形性股関節症の再生医療
▶ 股関節の再生医療について

腸腰筋についてよくある質問

腸腰筋についてよくある質問

Q. 腸腰筋は自分で触れますか?

ほとんどの場合、自分で直接触れることはできません。体の奥、内臓の後ろ側にあるためです。おなかを強く押して確かめようとすると、腸などの臓器を圧迫してしまうことがあります。硬さは、トーマステストのような動作で間接的に確認します。

Q. 腸腰筋が硬いと、腰痛になりますか?

腰痛の原因のひとつになる可能性はありますが、「硬い=腰痛」とは言えません。腰痛は、背骨、椎間板、関節、他の筋肉、神経、心理的な要因など、多くの要素が関わります。腸腰筋の筋量と腰痛の関係を示す研究はありますが、原因と結果の関係までは明らかになっていません。

Q. 腸腰筋が痛いのに、ストレッチで悪化しました。なぜですか?

痛みの原因が腸腰筋の硬さではなく、股関節の中の病気や腰椎の問題だった可能性があります。特に、深く伸ばす姿勢で痛みが増す場合や、脚の付け根の奥がつまるように痛む場合は、股関節唇損傷や変形性股関節症が隠れていることがあります。無理に続けず、いったん中止して受診してください。

Q. 腸腰筋は鍛えたほうがよいのですか、伸ばしたほうがよいのですか?

どちらか一方が正解というわけではなく、今の状態によります。長く座っていて硬さが目立つなら、ゆるめることから。脚が上がらない、歩幅が狭いなど弱りが目立つなら、鍛えることから始めます。迷う場合は、診察で確認できます。

Q. 高齢の親の腸腰筋の衰えは、どうやって気づけばよいですか?

歩き方が手がかりになります。以前より歩幅が狭い、足の裏をこするように歩く、玄関や敷居でつまずく、椅子からの立ち上がりに時間がかかる、階段で手すりが必要になった、などです。こうした変化が数か月のうちに目立ってきたら、腸腰筋だけでなく、股関節や腰の病気、全身の病気の影響も含めて、一度受診されることをお勧めします。

【武内院長のコメント】
「"筋肉が原因だと思っていたのに、実は関節でした""腰が原因だと思っていたのに、実は脚の付け根でした"。外来では、こうしたお話が本当に多いのです。痛みの場所と原因は、必ずしも一致しません。腸腰筋という名前は便利ですが、便利な名前に原因を押し込めてしまわないこと。それが、私が診察でいちばん気をつけている点です。」

まとめ|腸腰筋は「硬いか弱いか」を見極めて、痛みの原因は決めつけない

まとめ|腸腰筋は「硬いか弱いか」を見極めて、痛みの原因は決めつけない

  • 腸腰筋は、大腰筋・腸骨筋(と小腰筋)の総称で、背骨から骨盤の内側を通って太ももの骨につながる、体の奥の筋肉

  • 主な働きは脚を引き上げること。弱ると、歩幅が狭くなり、すり足やつまずきが増える

  • 座りっぱなしで硬くなると、腰や脚の付け根がつらくなる。ただし反り腰=腸腰筋の硬さ、とは限らない

  • 腰痛と大腰筋の筋量の関係を示す研究はあるが、観察研究が中心で、原因と結果までは断定できない

  • セルフチェックはトーマステストの左右差が手がかり。痛みが出るなら無理をしない

  • 発熱を伴う痛み(腸腰筋膿瘍)、血液をさらさらにする薬を飲んでいる方の急な痛みは、すぐに受診

  • ゆるめるか鍛えるかは今の状態で決まる。迷うときは、自己流で続けずに診察を受ける

関連コラム

参考文献

  1. Barker KL, et al. Changes in the cross-sectional area of multifidus and psoas in patients with unilateral back pain: the relationship to pain and disability. Spine (Phila Pa 1976). 2004;29(22):E515-9. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15543053/

  2. Mallio CA, et al. The importance of psoas muscle on low back pain: a single-center study on lumbar spine MRI. N Am Spine Soc J. 2024;18:100326. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38947493/

  3. Zhang B, et al. Relationships between psoas muscle index, lumbar lordosis, and chronic low back pain in middle-aged and elderly people. Eur Spine J. 2025;34(7):2511-2521. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40512194/

  4. Sığlan Ü, Çolak S. Effects of diaphragmatic and iliopsoas myofascial release in patients with chronic low back pain: A randomized controlled study. J Bodyw Mov Ther. 2023;33:120-127. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36775506/

  5. Thorborg K, et al. Large strengthening effect of a hip-flexor training programme: a randomized controlled trial. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2016;24(7):2346-52. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25796586/

  6. Kim B, Yim J. Core Stability and Hip Exercises Improve Physical Function and Activity in Patients with Non-Specific Low Back Pain: A Randomized Controlled Trial. Tohoku J Exp Med. 2020;251(3):193-206. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32669487/

院長監修記事

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武内 晋司郎

(たけうち しんじろう)

シンセルクリニック総院長

三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。

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三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。

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