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【医師監修】腸脛靭帯炎(ランナー膝)の症状・原因・治し方|膝の外側が痛いときのセルフチェックと回復までの期間を整形外科の医師が解説

2026.09.29

「走り始めて15分くらいすると、膝の外側がズキズキしてきて、走り続けられなくなる」

「階段を下りるときに膝の外側が痛い。休むと引くのに、また走るとぶり返す」

膝の外側の痛みで整形外科を受診されるランナーや自転車愛好家の方で、とても多いのが腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)です。「ランナー膝」という名前で知られていますが、走る方だけの病気ではありません。自転車、登山の下り、部活での急な練習量の増加などでも起こります。また50代以降の方では、変形性膝関節症や半月板の傷みとの区別に迷われることも少なくありません。

この記事では、シンセルクリニック総院長で整形外科の医師である武内晋司郎が、腸脛靭帯炎の症状とセルフチェック、原因についての研究の現状、似た病気との見分け方、治し方(保存療法)、回復までの期間の目安、再発予防を、できるだけ正直に解説します。

この記事の結論

  • 腸脛靭帯炎は、骨盤から膝の外側へ走る腸脛靭帯の付近に痛みが出る、使いすぎの障害。走り始めて一定の距離で痛みが出て、休むと引くのが典型

  • 原因は昔から「こすれる」摩擦説で説明されてきたが、近年は靭帯の下にある脂肪組織などが圧迫されるという解剖研究もあり、どちらか一方と断定はできない

  • 治療の中心は保存療法。負荷を減らし、お尻の横の筋力(股関節の外側の筋肉)を鍛え、フォームと練習量を見直す。手術が必要になるのはまれ

  • 膝の外側が痛い原因は他にもある。外側半月板損傷、外側側副靭帯損傷、変形性膝関節症などとの見分けが大切で、腫れ・ロッキング・夜間痛があれば受診を

  • 回復までの期間は個人差が大きい。痛みを我慢して走り続けたり、いきなり元の距離に戻したりすると長引きやすい

腸脛靭帯炎とは?膝の外側が痛くなる「ランナー膝」の正体

腸脛靭帯炎とは?膝の外側が痛くなる「ランナー膝」の正体

腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)は、骨盤の外側の骨(腸骨)のあたりから、太ももの外側を通って、膝の下の外側(すねの骨の外側の出っ張り)まで走る、太くて丈夫な膜状の組織です。名前に「靭帯」とつきますが、実際には太ももの外側を包む筋膜が厚くなったもので、お尻の筋肉や太ももの筋肉とつながっています。

この腸脛靭帯の膝の近くの部分に、使いすぎによって痛みが出る状態を腸脛靭帯炎と呼びます。ランナーに多いことから「ランナー膝」とも呼ばれますが、正確には、ランナー膝は膝の痛みをまとめて呼ぶ言葉としても使われ、膝のお皿まわりの痛みを指すこともあります。この記事では、膝の外側が痛くなる腸脛靭帯炎を扱います。

腸脛靭帯炎は、ランナーの膝の外側の痛みで最も多い原因のひとつです。ランナーを対象にしたシステマティックレビュー(複数の研究をまとめた論文)では、走る人の5〜14%程度に起こると推定されています(van der Worpら、2012年)。

診断は、走り始めてから痛みが出るという特徴的な経過と、診察での所見をもとに行うのが基本です。画像検査は、他の病気が疑われる場合や、治療を続けても良くならない場合に、ほかの原因を除外する目的で行います(Straussら、2011年)。

膝の痛みが出る場所ごとの原因は、こちらで整理しています。
▶ 膝の痛み|場所別(内側・外側・前・後ろ)に考える原因
▶ 膝の痛みの症状チェック(年代別)

【武内院長のコメント】「膝の外側が痛いと言って来られる方の多くが、最初に"半月板を痛めたのでは"と心配されます。もちろん確認が必要ですが、走り始めて何分か経つと痛くなり、止まると楽になる、という経過をお聞きすると、腸脛靭帯炎の可能性がまず頭に浮かびます。診断の半分は、痛みが出る"タイミング"のお話の中にあります。」

腸脛靭帯炎の症状とセルフチェック|走り始めて一定の距離で痛くなる

腸脛靭帯炎の症状とセルフチェック|走り始めて一定の距離で痛くなる

典型的な症状

  • 膝の外側(太ももの骨の外側の出っ張りのあたり)に痛みが出る

  • 走り始めてから一定の時間や距離が経つと痛くなる(毎回だいたい同じ距離で出るのが特徴)

  • 下り坂や階段を下りるときに痛みが強くなりやすい

  • 走るのをやめると痛みが引き、日常の歩行では気にならないことも多い

自分でできるセルフチェック

次の方法で、腸脛靭帯炎らしいかどうかの目安を確認できます。これは診断ではなく、受診時に医師へ伝える材料です。無理に痛みを出そうとせず、痛みが強いときは中止してください。

チェック

やり方

腸脛靭帯炎らしい所見

膝の外側を押す

いすに座って膝を軽く曲げ、膝の外側の骨の出っ張りのあたりを指で押す

押した部分に痛みがある。膝を曲げ伸ばしすると、その位置で痛みが強くなる

片脚スクワット

壁や机に軽く手を添え、痛い側の片脚で立ち、膝を少し曲げる

膝の外側が痛む。曲げると膝が内側に入り込み、骨盤が横に落ちる

痛みの出方

最近の運動と痛みを振り返る

走り始めて毎回同じ距離で出る。下り坂や階段の下りで強い。休むと引く

腫れ・引っかかり

膝の形、曲げ伸ばしを確認する

本来は腫れが目立たない。大きく腫れる・伸びない・ひっかかる場合は別の病気を疑う

片脚スクワットで膝が内側に入り込む動きは、お尻の横の筋肉(中殿筋など)がうまく使えていない可能性を示すことがあります。この点は、後ほどの原因の項目で詳しくお話しします。

こんなときは早めに受診を

  • 膝がはっきり腫れている、熱を持っている

  • 膝が完全に伸びない、または曲がらない(ロッキング)

  • 走っていなくても、安静にしていても、夜間に痛む

  • 2〜3週間、しっかり運動を減らしても痛みがまったく変わらない

▶ 半月板損傷の内側と外側の違い

腸脛靭帯炎の原因|「こすれる」説と「圧迫」説、なりやすい人と筋力の関係

腸脛靭帯炎の原因|「こすれる」説と「圧迫」説、なりやすい人と筋力の関係

腸脛靭帯炎の原因について、実は医学的にも考え方が分かれています。ここは患者さんにも正直にお伝えしたいところです。

昔からの説明:靭帯が骨の出っ張りでこすれる(摩擦説)

従来は、膝を曲げ伸ばしするたびに、腸脛靭帯が太ももの骨の外側の出っ張り(外側上顆)の上を前後にこすれて動き、その摩擦で炎症が起こる、と説明されてきました。そのため「腸脛靭帯摩擦症候群」という名前も使われます。

近年の考え方:靭帯の下の組織が圧迫される(圧迫説)

これに疑問を投げかけたのが、解剖の研究です。ご遺体15体の解剖と、痛みのないボランティア6名、急性の腸脛靭帯炎のアスリート2名の磁気共鳴画像検査を行った研究では、次のことが示されました(Faircloughら、2006年)。

  • 腸脛靭帯は、線維の束で太ももの骨にしっかり固定されており、骨の出っ張りの上を前後に転がるようには動いていなかった

  • 靭帯の深い側には、神経や血管が豊富な脂肪の層があった

  • 膝を約30度曲げたときに、靭帯が骨の出っ張りに圧迫されることが磁気共鳴画像検査で確認された

  • 腸脛靭帯炎の患者さんでは、靭帯の下の脂肪がある部分に磁気共鳴画像の信号変化が見られた

この研究は、腸脛靭帯炎が「こすれ」よりも、靭帯の下にある脂肪組織の圧迫に関係している可能性を示しています。ただし、解剖と少数の画像による検討ですので、これだけで摩擦説が完全に否定されたわけではありません。

整形外科医向けの総説でも、原因として次のような複数の考え方が挙げられています(Straussら、2011年)。

  • 摩擦説:腸脛靭帯が太ももの骨の外側の出っ張りとこすれる

  • 圧迫説:靭帯の深い側にある脂肪や結合組織が圧迫される

  • 滑液包の炎症説:靭帯の下の滑液包に慢性の炎症が起こる(ただし前述の解剖研究では滑液包は確認されなかった)

つまり、「こすれるから痛い」と単純に言い切れる段階ではなく、複数の要因が重なっていると考えるのが現実的です。いずれにしても、「繰り返しの膝の曲げ伸ばしによる負担が、膝の外側の同じ場所に集中して起こる使いすぎの障害」という理解は共通しています。

【武内院長のコメント】「患者さんには"靭帯が骨でこすれて炎症を起こす、と昔は説明されていましたが、最近は、靭帯の下の柔らかい組織が挟まれて痛む可能性も指摘されています"とお話ししています。どちらか一方に決めきれないと正直に言うと、少し不安そうな顔をされます。でも、原因が一つに決まっていないからこそ、負荷を減らす、筋力をつける、フォームを見直す、と複数の方向から整えていくわけです。」

なりやすい人・きっかけ

  • 長距離ランナー:走行距離が長い方

  • 自転車愛好家:ペダルを回す動作で膝の曲げ伸ばしが繰り返される

  • 練習量や走行距離を急に増やした方(大会前の追い込み、新学期の部活の開始など)

  • 下り坂の多いコースや、傾いた路面を走ることが多い方

  • O脚傾向のある方(膝の外側に負担がかかりやすいとされています)

股関節の外側(お尻の横)の筋力低下との関係

腸脛靭帯炎と関係が深いと言われているのが、股関節の外側の筋肉(股関節外転筋。中殿筋など)の筋力です。

長距離ランナーを対象にした研究では、腸脛靭帯炎のランナー24名(女性14名、男性10名)と健康な長距離ランナー30名を比較しています(Fredericsonら、2000年)。結果は次のとおりです。

  • 腸脛靭帯炎のランナーは、痛いほうの脚の股関節外転筋力が、痛くないほうの脚や、健康なランナーよりも弱かった

  • 中殿筋の強化に力を入れた6週間のリハビリ後、24名中22名が痛みなく運動でき、走ることに復帰できた

ただし、この研究は比較対象を置かずに経過を追った症例集積です。筋力を鍛えたから治ったのか、時間が経ったからなのかまでは、この研究だけでは区別できません。実際、ランナーの腸脛靭帯炎に関するシステマティックレビューでは、原因に関する研究の証拠は限られており、結果が一致していないこと、股関節外転筋の筋力低下が主要な役割を果たしているかどうかは、はっきりしていないことが指摘されています(van der Worpら、2012年)。

それでも、お尻の横の筋力強化は、リスクが低く、行う価値のある取り組みとして、実際の診療でも広く勧められています。

【武内院長のコメント】「腸脛靭帯炎で来られる方に、片脚立ちで軽くスクワットをしてもらうと、痛い側の膝が内側に入り、骨盤が横に落ちてしまう方が目立ちます。もちろん全員ではありませんし、それが原因だと断言はできません。ただ、股関節の横の筋肉を使えるようにするトレーニングは、痛みの再発予防としても、走りの安定としても意味があると感じています。」

筋肉やフォームの関連記事はこちらです。
▶ 腸腰筋とは?場所・働き・鍛え方
▶ 股関節ストレッチの正しいやり方

膝の外側が痛い他の病気との見分け方|外側半月板損傷・変形性膝関節症など

膝の外側が痛い他の病気との見分け方|外側半月板損傷・変形性膝関節症など

膝の外側が痛いからといって、すべてが腸脛靭帯炎とは限りません。特に50代以上の方では、変形性膝関節症や半月板の傷みが背景にあることも多く、区別が重要です。次の表は、見分けるための大まかな目安です。

病気

痛みの場所

特徴

腸脛靭帯炎

膝の外側(骨の出っ張り付近)

走り始めて一定の距離で痛む。下り坂・階段の下りで痛い。休むと引く。腫れは目立たない

外側半月板損傷

膝の外側の関節の隙間

ひねった後に発症しやすい。ひっかかり、ロッキング、膝に水がたまることがある

外側側副靭帯損傷

膝の外側(靭帯の走行に沿って)

強い衝撃やひねりのけがのあと。膝の外側への不安定感がある

膝蓋大腿関節の痛み

膝のお皿のまわり・前面

階段の上り下り、しゃがむ動作、長く座った後に痛む

変形性膝関節症

膝の内側が多いが、外側もあり得る

歩き始めの痛み、階段、正座での痛み。50歳以降に増える。水がたまることがある

鵞足炎(がそくえん)

膝の内側(すねの内側上部)

場所が内側。腸脛靭帯炎とは別の場所の痛みなので、区別が容易

50代以上で、普通に歩くだけでも痛い、朝の動き始めが痛い、膝に水がたまるといった場合は、腸脛靭帯炎だけでは説明がつきません。診察と、必要に応じてレントゲンや磁気共鳴画像検査で、どの病気が中心なのかを確認します。

▶ 半月板損傷のセルフチェック
▶ 鵞足炎とは?膝の内側が痛い原因と治し方
▶ 変形性膝関節症でやってはいけないこと

【武内院長のコメント】「膝の外側の痛みで、"走っていた頃からずっと腸脛靭帯炎だと思っていた"という50代、60代の方が、実際にはレントゲンで外側の関節の隙間が狭くなっていたり、半月板の傷みが見つかったりすることがあります。逆に、変形性膝関節症を心配して来られて、腸脛靭帯炎だったという方もいます。痛みの場所と出るタイミングを丁寧に聞くことが、見分ける第一歩です。」

腸脛靭帯炎の治し方|まず負荷を減らし、お尻の横の筋力を鍛える

腸脛靭帯炎の治し方|まず負荷を減らし、お尻の横の筋力を鍛える

腸脛靭帯炎の治療の基本は保存療法(手術をしない治療)です。診断がついたら、次の順で進めるのが一般的です。

1. 痛みを出す動作を減らす(負荷の調整)

最初に行うのは、痛みが出る動作を減らすことです。完全に休む必要があるとは限りません。痛みが出ない範囲の距離やペースで続ける、下り坂を避ける、平らな路面を選ぶ、走る代わりに水泳や上半身のトレーニングなど、痛まない運動に置き換える、といった調整をします。

2. アイシングと消炎鎮痛薬

痛みが強い時期には、運動後のアイシング(15分程度)が有効な場合があります。痛みが強いときには、飲み薬や貼り薬の消炎鎮痛薬を使うこともあります。これらは痛みを和らげる補助的な対処であり、根本的な原因を変えるものではありません。

3. ストレッチ

太ももの外側、お尻、股関節まわりの筋肉を、反動をつけず心地よく伸びる程度にゆっくり伸ばします。

ただし、腸脛靭帯そのものを強く引き伸ばそうとすると、痛みが増すことがあります。

4. お尻の横の筋力強化(股関節外転筋)

複数の研究を検討した最近のシステマティックレビューでは、ランナーの腸脛靭帯炎に対する保存療法として、股関節外転筋の強化運動が共通して用いられており、痛みや機能の改善に有効と考えられると結論づけられています。この論文では、13件の研究(参加者201名)をまとめ、2〜8週間で痛みが27%〜100%軽くなり、機能が10%〜57%改善したと報告されています。また、衝撃波治療や徒手療法を組み合わせることで、さらに効果が期待できる可能性も述べられています(Sanchez-Alvaradoら、2024年)。

運動

やり方

ポイント

横向きの脚上げ

横向きに寝て、上側の脚をまっすぐ持ち上げ、ゆっくり下ろす

骨盤が後ろに倒れないように。反動を使わない

クラムシェル

横向きで両膝を曲げ、かかとをつけたまま上の膝を開く

お尻の横の筋肉に効いているのを感じる。腰は反らさない

片脚立ち

壁に軽く手を添え、片脚で立つ。慣れたら膝を少し曲げる

骨盤が横に落ちない、膝が内側に入らないよう鏡で確認する

ブリッジ

仰向けで膝を立て、お尻を持ち上げる

腰を反らさず、お尻の筋肉で持ち上げる

5. フォームと練習量の見直し

ランナーの腸脛靭帯炎のシステマティックレビューでは、股関節と膝の連動、走り方が治療の鍵になり得ること、また関節を動かす徒手療法、股関節周囲の運動、シューズや走る路面に関する助言が役立つ可能性が述べられています(van der Worpら、2012年)。その一方で、研究の質は低く、結果が一致していないとも書かれています。

  • 走行距離やペースを段階的に増やす(週ごとの増やし幅を控えめにする)

  • すり減ったシューズを替える。足に合ったシューズを選ぶ

▶ ランニングと膝の関係
▶ ジョギングの効果と膝への負担
▶ 膝が痛い人のシューズの選び方
▶ スクワットで膝が痛いときの対処

【武内院長のコメント】「腸脛靭帯炎の治療で、最初にお願いするのは"完全に休む"ことではなく、"痛みが出ない範囲まで減らす"ことです。ランナーの方は、走れないこと自体が強いストレスになります。だから、走行距離を半分にする、下り坂を避ける、代わりに水泳やお尻の筋トレを入れる、というふうに、現実的に続けられる形で提案します。」

注射や手術という選択肢

保存療法で十分に改善しない場合の選択肢は次のとおりです。

  • ステロイド注射:発症してから2週間以内の腸脛靭帯炎のランナー18名を対象にした無作為化比較試験があり、ステロイド(メチルプレドニゾロン40mg)を注射した群で、走っているときの痛みが2週間の時点で有意に減った、と報告されています(Gunterら、2004年)。ただし、対象人数がごく少なく、評価は最初の2週間までで、長期の効果や安全性までは示されていません。使用は慎重に判断します

  • 手術:保存療法でうまくいかない慢性の経過の方には検討されることがありますが、まれです。整形外科向けの総説でも、治療の基本は手術以外で、慢性で長引く場合に手術が検討されるとされています(Straussら、2011年)

▶ トリガーポイント注射とは

腸脛靭帯炎の回復までの期間の目安と、やってはいけないこと

腸脛靭帯炎の回復までの期間の目安と、やってはいけないこと

回復までの期間の目安

「どのくらいで走れるようになりますか」は、最も多い質問です。結論から言うと、個人差が大きく、一概には言えません。研究で分かっている範囲では、次のような報告があります。

報告

内容

筋力強化を含む6週間のリハビリ

24名中22名が、痛みなく運動でき、走ることに復帰(Fredericsonら、2000年。比較対象のない症例集積)

保存療法をまとめた最近のレビュー

2〜8週間の介入で、痛みの軽減は27%〜100%と幅がある(Sanchez-Alvaradoら、2024年)

ステロイド注射の試験

発症2週間以内の方で、注射後2週間の時点で走行中の痛みが減った(Gunterら、2004年)

数字に幅があるのは、発症からの期間、症状の重さ、練習を続けたかどうか、他の病気の合併などによって回復が大きく変わるためです。おおまかな目安としては、軽症で早めに対応した方は数週間で改善する方が多く、長く我慢した方は数か月かかることもあります。ただし、これはあくまで目安で、保証ではありません。

やってはいけないこと

  • 痛みを我慢して走り続ける:炎症が長引き、回復が遅れる原因になります

  • 強いフォームローラーでのごりごり:太ももの外側を強く押しつけると、かえって痛みが増すことがあります。使うなら、痛みのない弱い力にとどめ、痛い部分を直接押さえつけるのは避けます

  • いきなり元の距離やペースに戻す:痛みが消えたからといって、休む前の練習量に急に戻すと、ぶり返しやすくなります

▶ 膝が痛いときにやってはいけないこと
▶ 膝サポーターの効果とリスク

【武内院長のコメント】「腸脛靭帯炎で長引く方に共通しているのは、"痛みが少し引いたところで、すぐ元の距離に戻してしまう"ことです。走れる嬉しさから、つい張り切ってしまう。でも、痛みが引いたのは"治った"のではなく、"痛みが出るラインを下回っている"だけのこともあります。再開後の最初の2〜3週間は、ゆっくり、を私は繰り返しお伝えしています。」

再発予防と、それでも良くならないときの選択肢

再発予防と、それでも良くならないときの選択肢

再発を防ぐために

  • 練習量は段階的に増やす:走行距離を急に増やさず、週ごとの増やし幅を控えめにする

  • お尻の横の筋力トレーニングを続ける:痛みが消えても、週に2〜3回、習慣として続ける

  • 痛みの合図を見逃さない:いつもより早い距離で痛み始めたら、早めに練習量を落とす

▶ 速く走るためのコツと膝への負担

薬や注射、運動で改善しないときに

保存療法を続けても膝の外側の痛みが改善しない場合や、変形性膝関節症や半月板の傷みなど、関節そのものの変化が重なっている場合には、再生医療という選択肢もあります。ご自身の血液から血小板を抽出する治療(PRP療法)や、ご自身の脂肪から採取した幹細胞を用いる治療など、傷んだ組織の修復を目指す方法です。いずれも自由診療であり、効果には個人差があり、すべての方に適応となるわけではありません。腸脛靭帯炎そのものに対する治療効果が確立しているわけではなく、膝の状態を診察・検査で確認したうえで、適応を判断します。

▶ PRP療法とは
▶ 膝の再生医療とは
▶ PRP療法と幹細胞治療の違い
▶ 膝の痛みの再生医療について

【武内院長のコメント】「再生医療についてご質問をいただくことがありますが、腸脛靭帯炎そのものは、負荷の調整、筋力強化、フォームの見直しで改善する方が多い病気です。まずはそこを丁寧にやるのが先です。それでも良くならない、あるいは膝の関節に変化が見つかった、という場合に、再生医療を選択肢の一つとしてご説明します。決して最初の選択肢ではありません。」

腸脛靭帯炎についてよくある質問

腸脛靭帯炎についてよくある質問

Q. 腸脛靭帯炎は、走らなければ治りますか?

完全に休めば痛みは引くことが多いですが、それだけでは、お尻の横の筋力やフォームの課題が残り、再開するとぶり返すことがあります。痛みが出ない範囲で活動を続けながら、筋力強化とフォームの見直しを並行して行うのが一般的です。

Q. 病院に行くべきですか?自分で治せますか?

軽症で、走ったときだけ痛み、休むと引くという典型的な経過であれば、負荷の調整とセルフケアで改善する方も多くいます。ただし、2〜3週間しっかり運動を減らしても変わらない、腫れがある、ひっかかる、夜間に痛む、50歳以上で歩くだけでも痛い、という場合は、他の病気が隠れている可能性があるため受診をお勧めします。

Q. 自転車でも腸脛靭帯炎になりますか?

なります。ペダルを回すたびに膝を曲げ伸ばしするため、走行距離が急に増えたときや、サドルの高さ・ペダルの位置が合っていないときに起こりやすくなります。自転車の調整を見直すと改善することがあります。

Q. フォームローラーは使ってもいいですか?

強く押しつけて痛みを我慢する使い方は避けてください。使う場合は、痛みのない弱い力で、お尻や太ももの筋肉をほぐす程度にとどめます。

Q. 腸脛靭帯炎と鵞足炎は同じですか?

別の病気です。腸脛靭帯炎は膝の外側、鵞足炎は膝の内側(すねの内側の上部)が痛みます。

まとめ|腸脛靭帯炎は、負荷の調整とお尻の横の筋力で整えていく

まとめ|腸脛靭帯炎は、負荷の調整とお尻の横の筋力で整えていく

  • 腸脛靭帯炎は、骨盤から膝の外側へ走る腸脛靭帯付近の使いすぎの障害。走り始めて一定の距離で痛み、下り坂や階段の下りで強く、休むと引くのが特徴

  • 原因は「こすれる」摩擦説と、靭帯の下の脂肪組織などが圧迫される圧迫説の両方が議論されており、どちらか一方と断定はできない

  • 長距離ランナーで股関節の外側の筋力が弱かったという報告があるが、それが原因の中心かどうかは研究の結果が一致していない

  • 膝の外側の痛みには、外側半月板損傷、外側側副靭帯損傷、変形性膝関節症などもある。50代以上の方は特に区別が大切

  • 治療の中心は保存療法。負荷の調整、ストレッチ、お尻の横の筋力強化、フォームと練習量の見直し。手術はまれ

  • ステロイド注射は発症早期の短期的な痛みの軽減を示した小規模な試験がある。長期の効果は示されていない

  • 回復までの期間は個人差が大きい。痛みを我慢して走り続ける、強くごりごりほぐす、いきなり元の距離に戻すのは避ける

  • 腫れ、ロッキング、夜間痛、2〜3週間で変わらない痛みがあるときは、早めに整形外科へ

関連コラム

参考文献

  1. Strauss EJ, Kim S, Calcei JG, Park D. Iliotibial band syndrome: evaluation and management. J Am Acad Orthop Surg. 2011;19(12):728-36. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22134205/

  2. van der Worp MP, van der Horst N, de Wijer A, Backx FJ, Nijhuis-van der Sanden MW. Iliotibial band syndrome in runners: a systematic review. Sports Med. 2012;42(11):969-92. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22994651/

  3. Fairclough J, Hayashi K, Toumi H, Lyons K, Bydder G, Phillips N, Best TM, Benjamin M. The functional anatomy of the iliotibial band during flexion and extension of the knee: implications for understanding iliotibial band syndrome. J Anat. 2006;208(3):309-16. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16533314/

  4. Fredericson M, Cookingham CL, Chaudhari AM, Dowdell BC, Oestreicher N, Sahrmann SA. Hip abductor weakness in distance runners with iliotibial band syndrome. Clin J Sport Med. 2000;10(3):169-75. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10959926/

  5. Gunter P, Schwellnus MP. Local corticosteroid injection in iliotibial band friction syndrome in runners: a randomised controlled trial. Br J Sports Med. 2004;38(3):269-72. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15155424/

  6. Sanchez-Alvarado A, Bokil C, Cassel M, Engel T. Effects of conservative treatment strategies for iliotibial band syndrome on pain and function in runners: a systematic review. Front Sports Act Living. 2024;6:1386456. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39247485/

院長監修記事

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武内 晋司郎

(たけうち しんじろう)

シンセルクリニック総院長

三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。

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三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。

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