ひざ・肩・股関節の再生医療専門クリニック
大阪
名古屋
豊田
広島
福岡
true

【医師監修】前十字靭帯断裂でも歩ける?全治までの期間と手術・リハビリの選び方
「前十字靭帯が切れていると言われたのに、普通に歩けている。このまま様子をみてよいのだろうか」
「全治まで何か月かかるのか。仕事は休むべきか。手術は必ず必要なのか」
前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)の断裂は、「切れたのに歩ける」ことがあるために、かえって判断に迷いやすいけがです。ご相談でも、「歩けるので大したことはないと思っていた」「全治がいつか分からない」と聞かれます。
この記事では、シンセルクリニック総院長で整形外科の医師である武内晋司郎が、前十字靭帯が断裂したあとに歩ける理由、歩けても調べておきたい理由、全治までの期間の目安、手術とリハビリの考え方を解説します。靭帯の場所と働きは膝の靭帯とは、ひねった直後の見分け方は膝を捻った後の痛みと腫れにまとめています。この記事は「断裂したあと」の話に絞ります。
この記事の結論
前十字靭帯が完全に切れていても、平らな道をまっすぐ歩けることがある。太ももの筋肉などが膝を支えるため。ただし、方向転換・階段の下り・ひねる動きでは膝が崩れやすく、「歩ける=軽い」ではない
「全治」を一言で言える期間はない。腫れと痛みは数週間で落ち着くことが多いが、靭帯がつながったとは限らない。再建手術後の運動への復帰は術後9か月以降が研究上の目安。日常生活・仕事・スポーツで、目安は別々に考える
手術かリハビリかは、どちらか一方が正解とは言えない。若く活動的な成人121人の試験では、2年後も5年後も11年後も、膝の評価点に差がなかった。膝崩れの有無・半月板の傷・したい運動・年齢で決める
歩けるうちに調べておきたい。手術までの期間が長いほど、半月板の損傷が増えるという登録研究がある
膝を伸ばせない・体重をかけられない・足先が冷たいときは、日数を待たずにすぐ受診。歩けていても、受傷から1〜2週間のうちに一度は整形外科で確かめる
- この記事の結論
- 前十字靭帯が切れても歩ける?|歩けるわけと、歩けても油断できない理由
- なぜ歩けるのか
- 歩けないことも多い|受傷直後の様子
- 歩けても崩れやすい場面
- 前十字靭帯が切れたときのサインと、受傷直後の過ごし方
- 受傷直後にできること
- 受診の目安|日数と、すぐ受診するサイン
- 病院での検査と診断|ラックマンテスト・MRIで何がわかるか
- 診察でわかること
- レントゲンとMRIの役割
- 傷み方は3段階|伸びただけ、一部が切れた、完全に切れた
- 切れた前十字靭帯は、自然につながる?
- 歩けるのに放っておくと、膝の中で何が起こる?|半月板・軟骨への影響
- 半月板の傷が増える
- 将来の変形性膝関節症との関係
- 歩けるだけでなく、崩れずに過ごせる人もいる
- 全治までの期間の目安|保存療法と再建手術、日常生活・仕事・スポーツ別
- 「全治」とは、何を指すのか
- 運動への復帰は、日数より「確認項目」で決める
- 仕事への復帰
- 手術か、リハビリか|選び方の考え方と、研究でわかっていること
- 手術をしても、しなくても、膝の評価点は近かった
- 手術が検討されることが多い場合
- 40代・50代以降の前十字靭帯断裂|若いスポーツ選手との違い
- リハビリと日常生活の注意|階段・車の運転・再受傷を防ぐ
- 日常生活で気をつけること
- 前十字靭帯断裂と再生医療|対象になりうる場合と、手術を考える場合
- 靭帯の断裂のあとの再生医療(幹細胞治療)
- 研究でわかっていること、まだわからないこと
- 前十字靭帯断裂についてよくある質問
- Q. 歩けるなら、手術はしなくてよいですか?
- Q. 切れた靭帯は、自然につながりますか?
- Q. 全治まで、どのくらいかかりますか?
- Q. 仕事は、いつから行けますか?
- Q. 何科を受診すればよいですか?
- まとめ|歩けても、前十字靭帯断裂は「調べて、計画する」けが
- 関連コラム
- 参考文献
前十字靭帯が切れても歩ける?|歩けるわけと、歩けても油断できない理由

結論から言うと、前十字靭帯が完全に切れていても、歩ける方はいます。ただし、歩けたことは、けがが軽い証拠ではありません。前十字靭帯は、すねの骨が前へずれるのを止め、ひねる動きを安定させる靭帯です。切れても、まっすぐ歩くだけなら、ほかの組織が助けてくれる場面が多いのです。
なぜ歩けるのか
まっすぐ歩く動きは、前十字靭帯への要求が小さい:平らな道をゆっくり歩くとき、膝にかかる力の多くは上下方向で、すねの骨を前へずらす力は大きくありません
筋肉が代わりに支える:コンピューターで膝を再現した研究では、太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)の力を増やすと、靭帯がない膝でも、歩行中のすねの骨の前へのずれを正常に近づけられると報告されています
痛みと腫れが引くと、動けてしまう:靭帯は骨のように体重を支える柱ではないためです
ところが、ひねる動きや踏ん張る動きになると、筋肉だけでは抑えきれず、すねの骨が前へずれて膝が崩れます。

歩けないことも多い|受傷直後の様子
一方で、受傷してすぐは、痛みと腫れが強くて歩けない方も少なくありません。半月板や骨を一緒に傷めている場合も同様です。歩ける・歩けないの差は、重症度よりも、痛み・腫れ・一緒に傷んだ組織・筋力で決まると考えてください。
歩けても崩れやすい場面
動き | 歩きやすさ・崩れやすさ | 理由 |
|---|---|---|
平らな道をゆっくり歩く | 歩けることが多い | 前へずれる力が小さく、筋肉で支えられる |
階段を上る | 歩けることが多い | 太ももの前の筋肉が働きやすい |
階段・坂道を下りる | 不安や崩れが出やすい | 体重を受け止めながら膝を曲げるため、すねの骨が前へずれやすい |
急に向きを変える・振り返る | 崩れやすい | ひねる力を止める役目を、前十字靭帯が担っている |
片脚で踏ん張る・着地する | 崩れやすい | 1本の脚に体重と回旋の力が集中する |
走る・急に止まる | 崩れやすい | ずれる力が大きくなる |
「ガクッ」と抜ける症状は、原因別にまとめています。
▶ 膝がカクンと抜ける・崩れ落ちる原因
【武内院長のコメント】
「相談に来られる方から、『ガクッとなったあとも普通に歩けたので、そのままにしていた』と聞くことがあります。歩けることと、膝が安定していることは別のことです。まっすぐ歩けても、階段の下りや向きを変える動きで怖さがあるなら、一度、膝の状態を確かめておくと安心です。」
前十字靭帯が切れたときのサインと、受傷直後の過ごし方

前十字靭帯の断裂は、ジャンプの着地、急な方向転換、スキーの転倒など、膝をひねった瞬間に起こることが多いけがです。階段の踏み外しや転倒で起こる方もいます。受傷時の様子は、次のようなものです。
「ブチッ」「ポン」という音や感覚があった
数時間のうちに、膝が大きく腫れた(関節の中の出血で、前十字靭帯の損傷でよく見られます)
直後に、膝がガクッと崩れた、または力が入らなかった
腫れの原因は、前十字靭帯のほかにも、半月板、骨折などがあります。腫れ方での見分け方は、こちらを参考にしてください。
▶ 膝に水が溜まる原因と症状
▶ 突然、膝に腫れと痛みが出たら注意
▶ 膝が急に痛い原因10選
受傷直後にできること
休める:がまんして歩き回らない。体重をかけると痛いときは、松葉杖などで守る
冷やす:タオルで包んだ保冷剤を、1回15〜20分ほど当てる
圧迫・高くする:弾性包帯を軽く巻き、膝を心臓より高くする
温める・お酒を飲む・マッサージは、受傷から1〜2日は避けます。応急処置の詳しい手順は、前述の「膝を捻った後の痛みと腫れ」の記事にまとめています。
受診の目安|日数と、すぐ受診するサイン
状態 | 受診の目安 |
|---|---|
大きな事故のあとに、足先が冷たい・色が悪い・しびれる | すぐ救急で受診(血管や神経の損傷の可能性) |
膝を伸ばせない。仰向けで脚を持ち上げられない | その日のうちに受診(お皿の周りの腱の断裂などの可能性) |
体重をかけられない。大きく腫れた。膝が引っかかって動かない | 翌日までに受診(骨折、半月板損傷、靭帯損傷など) |
歩けるが、音がした・腫れた・膝がガクッとなった | 受傷から1週間以内に受診。遅くとも2週間以内には |
赤く腫れて熱を持ち、発熱もある | すぐ受診(感染などの可能性) |
転んでお皿を打ったあとの痛みは、お皿の骨折の可能性もあります。
▶ 膝蓋骨骨折(膝のお皿の骨折)の歩ける・全治・手術の目安
病院での検査と診断|ラックマンテスト・MRIで何がわかるか

診察でわかること
診察では、受傷の状況(いつ・どんな動きで・音があったか)を伺ったあと、膝を動かして緩みを確かめます。ラックマンテストは、膝を軽く曲げて、すねの骨を前へ引き出し、前十字靭帯の緩み具合を調べる検査です。腫れや痛みが強い時期は分かりにくいため、落ち着いてから、もう一度調べることもあります。
レントゲンとMRIの役割
レントゲンに写るのは骨で、靭帯そのものは写りません。「骨に異常なし」と言われても、前十字靭帯が切れていないという意味にはなりません。靭帯・半月板・軟骨の状態は、MRIで確かめます。
▶ 関節のMRI検査とは?レントゲンとの違い
傷み方は3段階|伸びただけ、一部が切れた、完全に切れた
傷み方 | 靭帯の状態 | よくある様子 |
|---|---|---|
軽度(1度) | 伸びた、ごく一部が傷んだ | 痛みと軽い腫れ。ぐらつきはほとんどない |
中等度(2度・部分断裂) | 一部が切れた | 腫れと痛み。階段や向きを変えるときにずれる感じ |
重度(3度・完全断裂) | 完全に切れた | はっきりしたぐらつき。痛みが引くと歩ける方もいる |
切れた前十字靭帯は、自然につながる?
前十字靭帯は膝の関節の中にあり、血流が乏しく、切れると自然にはつながりにくいとされてきました。一方で、近年の研究では、少し違う面も見えてきています。急性の前十字靭帯断裂のあとにリハビリを中心に治療した成人120人を調べたスウェーデンの研究では、MRIで靭帯がつながっている所見が、リハビリを選んだ方の約3人に1人、手術に進まなかった方に限ると約2人に1人で見られました。つながった所見のある方は、スポーツや生活の質の点数が良い傾向でした。
ただし、これは「放っておけばつながる」という意味ではありません。つながるかどうかは経過を追わないと分からず、つながって見えても、すべての方で膝が安定するとは限りません。
【武内院長のコメント】
「相談に来られる方から、『靭帯が切れていると言われたが、部分的なのか完全なのか分からない』と聞くことがあります。画像の見え方だけでなく、膝を動かしたときのぐらつきや、日常で困っている動きを合わせて判断します。説明が分かりにくいときは、遠慮せずに質問してください。」
歩けるのに放っておくと、膝の中で何が起こる?|半月板・軟骨への影響

切れた膝で動き続けると、靭帯が止めるはずだった「すねの骨のずれ」を、半月板や軟骨が受け止めることになります。
半月板の傷が増える
ニュージーランドの登録研究(前十字靭帯の再建手術1万5,586件)では、受傷から手術までの期間が長いほど、内側の半月板が傷んでいる割合が高くなりました。手術が受傷から6〜12か月後だった方では約40%、12か月より後だった方では約53%に、内側半月板の断裂がありました。3か月より遅れた手術では、軟骨の傷も増える傾向でした。

これは登録データの比較で、「遅らせたから必ず傷んだ」と言い切れるものではありません。それでも、歩けるうちに膝の状態を知っておくことの意味を示しています。
▶ 半月板損傷の症状チェック完全ガイド
将来の変形性膝関節症との関係
前十字靭帯の損傷のあとは、変形性膝関節症が起こりやすいことが知られています。10年以上たった時点のレントゲンを調べた研究を整理した2009年の報告では、前十字靭帯の損傷だけの方で0〜13%、半月板の損傷も一緒にあった方で21〜48%に変形性膝関節症が見られました。もっとも多く挙げられた危険因子は、半月板の損傷です。
▶ 変形性膝関節症とは?症状から最新治療まで
▶ 膝の軟骨がすり減るとどうなる?痛みの正体と治療
歩けるだけでなく、崩れずに過ごせる人もいる
前十字靭帯が切れても、膝崩れなく過ごせる方(「コーパー」と呼ばれます)がいます。ノルウェーの研究では、損傷した125人のうち、早い時期の検査(片脚のジャンプ検査など)で「コーパーの可能性が高い」とされたのは37%でした。手術を受けずに経過を追った52人のうち、1年後に65%が、膝崩れなく元の活動を続けられていました。
一方で、この検査で「可能性が低い」と判定され、手術を受けずに経過をみた方のうち、約70%も1年後には崩れずに過ごせていました。つまり、早い時期の検査だけで手術の要否を決めきるのは難しく、自己判断で「大丈夫」とするのも、あきらめるのも早いということです。
【武内院長のコメント】
「相談に来られる方から、『いつか手術になるのでしょうか』『何もしなければ悪くなる一方ですか』と、不安を聞くことがあります。切れた靭帯のまま、うまく過ごせる方もいれば、崩れを繰り返す方もいます。大切なのは、膝の状態と、これからしたい動きを、早めに一緒に整理することです。」
全治までの期間の目安|保存療法と再建手術、日常生活・仕事・スポーツ別

「全治」とは、何を指すのか
前十字靭帯断裂には、骨折のように「何週間で全治」という決まった数字がありません。痛みが引くこと、日常生活に戻ること、仕事に戻ること、スポーツに戻ることは、それぞれ別の時期になるためです。下の表は一般的な流れで、実際の時期は、治療法、術式、年齢、合併損傷、仕事や運動の内容で変わります。担当の医師の判断を優先してください。
時期・目標 | 手術をしない(リハビリ中心) | 再建手術を受ける |
|---|---|---|
腫れ・痛みが落ち着く | 数日〜数週間 | 手術前に腫れと動きをある程度整える。術後は数週間 |
日常生活の動作 | 腫れが引くと歩ける方が多い。階段の下りや向きを変える動きは、筋力がついてから | 松葉杖や装具を使う期間のあと、段階的に。期間は施設と術式で異なる |
デスクワーク | 痛みと腫れが落ち着けば可能なことが多い | 早期に復帰できる方が多い(通院リハビリとの調整が必要) |
立ち仕事・重い物を持つ仕事 | 膝崩れがなく、筋力が戻ってから | 術後の経過をみて、医師と時期を相談 |
ランニング・軽い運動 | 数か月の筋力トレーニングのあと、医師の許可で | 術後の経過と筋力の回復をみて段階的に |
切り返し・ジャンプを含む競技 | 崩れがなく、筋力と動きの確認ができてから | 術後9か月以降が研究上の目安 |

運動への復帰は、日数より「確認項目」で決める
前十字靭帯の再建手術を受けて、ジャンプやひねりのある競技をする106人を2年追ったノルウェーとアメリカの研究では、術後9か月までは、復帰を1か月遅らせるごとに再受傷が51%少なくなりました。9か月を過ぎると、それ以上は減りませんでした。復帰前に太ももの筋力の左右差が小さい方ほど、再受傷も少なくなりました。復帰は、日数だけでなく、筋力・片脚でのジャンプ・動きの質を確かめて決めます。
手術後の復帰の状況をまとめた69編の研究では、10人に8人(81%)が何らかのスポーツに戻り、10人に6〜7人(65%)が受傷前と同じレベルに、10人に5〜6人(55%)が競技レベルに戻っていました。
仕事への復帰
再建手術を含む複数の手術を整理した2026年の報告では、元の仕事の内容へ完全に戻れた割合は90%を超えていました。一方、体を使う負担が大きい仕事ほど、復帰が遅れる傾向がありました。仕事の内容は、早めに担当の医師へ伝えておくと、計画が立てやすくなります。
靭帯損傷全般の回復期間の考え方は、こちらも参考になります。
▶ 靭帯損傷を早く治す方法とは(種類・応急処置・回復期間)
手術か、リハビリか|選び方の考え方と、研究でわかっていること

手術をしても、しなくても、膝の評価点は近かった
前十字靭帯の治療について、代表的な臨床試験が、スウェーデンのものです。スポーツ中に前十字靭帯を切った若い成人121人を、「早めに再建手術を受ける」群と、「まずリハビリを行い、必要になったら後から手術を受ける」群に分けて追いました。
2年後:膝の評価点(KOOS)の改善は、早めに手術の群が39.2点、後から手術も可の群が39.4点で、差はありませんでした。後者の59人のうち、実際に手術を受けたのは23人で、36人はリハビリだけで経過しました
5年後:改善は42.9点と44.9点で、差はありませんでした
11年後:改善は46点と45点で、差はありませんでした。全体の約3分の2が「満足できる状態」にあり、44%でレントゲン上の変形性関節症が見られました
また、ノルウェーでリハビリ中心で始めた485人(平均35歳)の登録研究では、2年後も63%が手術を受けずに過ごしていました。手術に進んだ理由は、膝の不安定感(85%)が最多でした。25歳未満の方、ひねる動きの多い競技をしていた方、受傷時から半月板の傷があった方は、手術に進む割合が高くなりました。
これらは、「手術が不要」という意味ではありません。対象は若く活動的な方が中心で、結果は人によって違います。
手術が検討されることが多い場合
日常生活でも、膝が崩れる(リハビリを続けても、不安定感が消えない)
半月板の損傷があり、ロッキング(膝が引っかかって動かない)や強い引っかかりがある
ひねる・ジャンプする競技に、元のレベルで戻りたい
ほかの靭帯も一緒に傷んでいる、または仕事で不安定な膝が危険につながる(高所、重い荷物など)
手術は一般に、関節鏡を使い、ご自身の腱(太ももの裏、膝のお皿の下、太ももの前などから)で靭帯を作り直す方法が中心です。入院の期間やリハビリの進め方は、施設で異なります。
▶ 膝の手術の種類・入院期間・費用
当院は、手術を行うクリニックではありません。手術が必要と判断された場合は、手術のできる医療機関での治療になります。当院では、現在の状態の整理や、再生医療が選択肢になりうるかのご相談をお受けしています。
【武内院長のコメント】
「相談に来られる方から、『手術しかないと言われた』と『手術は急がなくていいと言われた』の、両方の声を聞くことがあります。どちらも、膝の状態と、したいことによって変わるため、矛盾しているわけではありません。迷うときは、『手術をしない場合と、した場合に、私の生活はどう変わりますか』と質問してみてください。」
40代・50代以降の前十字靭帯断裂|若いスポーツ選手との違い

前十字靭帯の断裂は、10〜20代のスポーツ選手に多いけがですが、40代以降でも、スキーやテニス、ゴルフ、登山などの趣味、階段での転倒、段差の踏み外しで起こる方がいます。年齢が上がると、考え方が少し変わります。
軟骨のすり減りや半月板の傷みが、すでに背景にあることが多い:前十字靭帯だけの問題ではなく、変形性膝関節症が重なっている場合は、全体を見て治療を考えます
「競技に戻る」より「生活と趣味を守る」が目標になることが多い
手術を受けた中高年の成績も報告されています。再建手術を受けた195人を5年追った研究では、50代で83%、60歳以上で66%が「正常またはそれに近い」評価でした。若い世代より点数はやや低い傾向でしたが、膝の機能と満足度は、年齢が高くても保たれていました。
これらは「年齢が高くても手術を勧める」という意味ではなく、年齢だけで選択肢を狭めなくてよいことを示しています。
▶ 年代別・症状チェック|膝の痛みの原因と受診の目安
【武内院長のコメント】
「相談に来られる方から、『もう年だから、このまま我慢する』という言葉を聞くことがあります。年齢で、できることを決める必要はありません。膝の状態と、毎日の生活で困っていることを、一緒に整理しましょう。」
リハビリと日常生活の注意|階段・車の運転・再受傷を防ぐ

手術をする・しないにかかわらず、太ももとお尻の筋肉を使えるようにすることが、リハビリの中心です。靭帯の代わりに膝を支えるのは、これらの筋肉だからです。
段階 | 主な目標 | 例 |
|---|---|---|
初期 | 腫れを抑える。膝を伸ばし切る。太ももに力を入れる感覚を取り戻す | 膝の下に丸めたタオルを置いて、太ももに力を入れる運動 |
中期 | 太ももの前後・お尻の筋力を上げる。片脚で立つ | スクワット、片脚立ち、お尻を持ち上げる運動 |
後期 | ひねる・跳ぶ・走る動きの準備 | 理学療法士の指導のもとで |
膝に負担の少ない筋トレと、お尻の筋肉の記事です。
▶ 膝に負担のかからない筋トレ
▶ 股関節の筋肉とは?前・後ろ・横・内側・深層の地図
日常生活で気をつけること
階段の下り・坂道:手すりを使い、1段ずつ、ゆっくり下りる
向きを変えるとき:体をひねらず、足を踏み換えて向きを変える
車の運転:右膝のけがや手術のあとは、ブレーキを素早く踏める状態になるまで控える。時期は担当の医師に確認する
装具(サポーター)は膝を守る助けになりますが、靭帯の代わりに完全に止めてくれるものではありません。
▶ 膝サポーターの選び方・メリットとリスク
【武内院長のコメント】
「相談に来られる方から、『リハビリは痛みが引いたらやめてよいですか』と聞かれることがあります。痛みが引いたあとこそ、筋肉を育てる時期です。靭帯を鍛えることはできませんが、膝を支える筋肉は、何歳からでも育てられます。」
前十字靭帯断裂と再生医療|対象になりうる場合と、手術を考える場合

靭帯の断裂のあとの再生医療(幹細胞治療)
当院は手術や保険診療を行わない、再生医療のクリニックです。膝の靭帯の損傷・断裂は、当院の幹細胞治療(自己脂肪由来幹細胞治療)の対象になりえます。また、前十字靭帯や半月板を傷めたあとに、膝の軟骨がすり減って痛む変形性膝関節症になる方もいます。膝の変形性関節症は、当院の幹細胞治療の主な対象です。一方で、受傷直後の腫れや痛み、軽い捻挫そのものは、安静や固定などの基本の対応で落ち着くことが多く、対象ではありません。また、膝が大きくぐらつく場合は、まず手術の検討が必要になることがあります。方法は、お腹などから脂肪を少量採取(局所麻酔・日帰り)し、そこから幹細胞を取り出して約4〜6週間培養し、膝の関節に注射します。幹細胞は「体の修復を担当する細胞」で、傷んだ靭帯や軟骨の修復に働きかけ、炎症をしずめることを目指します。ご自身の細胞・血液を用いるため、拒絶反応のリスクはほぼありません。自由診療(保険外)であり、費用は保険診療より高くなること、効果には個人差があり、すべての方に同じ変化が出るわけではないことをご了承ください。ご自分の膝の関節が対象になるかどうかは、症状とMRIなどの画像検査の結果をもとに、診察で慎重に判断します。
研究でわかっていること、まだわからないこと
脂肪由来の幹細胞を膝の変形性関節症に注射する研究は、6件の無作為化比較試験(551人)をまとめた2026年のメタ解析で、3か月・6か月・12か月後の痛みの点数が対照より低く、有害事象が明らかに増えたとはいえなかったと報告されています。ただし、長期のデータは限られます。
一方、前十字靭帯の断裂そのものに対する脂肪由来の細胞治療は、2026年の総説で「研究段階にあり、日常の診療で使うには十分な根拠がない」とまとめられています。このため当院では、「靭帯をつなぎ直す治療」とは説明せず、痛みや炎症、半月板や軟骨の傷みなど、膝全体の状態にあわせて、対象になるかどうかを慎重に判断しています。膝が大きくぐらつく場合は、手術のできる医療機関での治療が向いていることもお伝えしています。
▶ 半月板損傷・断裂に特化した再生医療(幹細胞治療)
▶ 膝の人工関節・手術を避けたい方へ(変形性膝関節症の再生医療)
▶ 脂肪由来幹細胞とは?骨髄由来との違い
▶ 膝の再生医療(治療ページ)
【武内院長のコメント】
「靭帯の断裂も、再生医療の対象になりうる場合があります。ただ、けがの程度や時期、ぐらつきの強さで、向いている治療は変わります。ご相談では、まず今の痛みやぐらつきの原因が、靭帯なのか、半月板なのか、軟骨なのかを一緒に整理します。そのうえで、向いている治療を、手術も含めてお話しします。」
前十字靭帯断裂についてよくある質問

Q. 歩けるなら、手術はしなくてよいですか?
歩けることだけで、手術の要否は決められません。膝崩れの有無、半月板の損傷、したい運動、年齢などで判断します。リハビリから始めて、崩れるようなら手術を検討する、という進め方もあります。
Q. 切れた靭帯は、自然につながりますか?
つながりにくいとされていますが、リハビリ中心の治療を受けた方の一部で、MRIでつながった所見が見られたという研究があります。ただし、つながっても膝が安定するとは限らず、経過を見ながら判断します。
Q. 全治まで、どのくらいかかりますか?
日常生活の動作は、腫れが引けば戻ることが多い一方で、スポーツへの復帰は、再建手術後なら術後9か月以降が研究上の目安です。「全治」は、何に戻りたいかで変わります。
Q. 仕事は、いつから行けますか?
デスクワークは、痛みと腫れが落ち着けば可能なことが多く、立ち仕事や重い物を持つ仕事は、膝崩れがなく筋力が戻ってからです。仕事の内容を具体的に伝えて相談してください。
Q. 何科を受診すればよいですか?
整形外科です。再生医療を含めた相談をご希望の場合は、ご予約・ご相談のご案内からご連絡ください。
まとめ|歩けても、前十字靭帯断裂は「調べて、計画する」けが

完全に切れていても、まっすぐ歩けることがある。ただし、階段の下り・向きを変える動き・ジャンプでは崩れやすい
歩けても、受傷から1〜2週間のうちに整形外科で確かめる。膝を伸ばせない・体重をかけられない・足先が冷たいときは、すぐ受診
「全治」は一つではない。日常生活・仕事・スポーツで時期が違い、再建手術後の運動への復帰は術後9か月以降が目安
手術とリハビリは、研究上、どちらか一方が正解とは言えない。膝崩れ・半月板の傷・したい運動・年齢で、一緒に決める
再生医療は、靭帯の損傷・断裂や、そのあとの変形性膝関節症が対象になりうる(受傷直後・軽い捻挫そのものは対象外)。大きくぐらつく場合は手術の検討が先。対象かどうかは診察で判断する
関連コラム
参考文献
Frobell RB, et al. A randomized trial of treatment for acute anterior cruciate ligament tears. N Engl J Med. 2010;363(4):331-342. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20660401/
Frobell RB, et al. Treatment for acute anterior cruciate ligament tear: five year outcome of randomised trial. BMJ. 2013;346:f232. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23349407/
Lohmander LS, et al. Treatment for Acute Anterior Cruciate Ligament Tear in Young Active Adults. NEJM Evid. 2023;2(8):EVIDoa2200287. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38320141/
Kooy CEVW, et al. Non-operative treatment of anterior cruciate ligament injuries: two-thirds avoid surgery at 2-year follow-up in a nationwide cohort. Br J Sports Med. 2025;59(24). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41093364/
Filbay SR, et al. Evidence of ACL healing on MRI following ACL rupture treated with rehabilitation alone may be associated with better patient-reported outcomes: a secondary analysis from the KANON trial. Br J Sports Med. 2023;57(2):91-98. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36328403/
Moksnes H, et al. Individuals with an anterior cruciate ligament-deficient knee classified as noncopers may be candidates for nonsurgical rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2008;38(10):586-595. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18979658/
Shelburne KB, et al. Effect of muscle compensation on knee instability during ACL-deficient gait. Med Sci Sports Exerc. 2005;37(4):642-648. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15809564/
Rahardja R, et al. Delayed reconstruction is associated with higher rates of medial meniscus and chondral injury following anterior cruciate ligament (ACL) injury: A New Zealand ACL registry study. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2026;34(7):2392-2399. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40823875/
Øiestad BE, et al. Knee osteoarthritis after anterior cruciate ligament injury: a systematic review. Am J Sports Med. 2009;37(7):1434-1443. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19567666/
Grindem H, et al. Simple decision rules can reduce reinjury risk by 84% after ACL reconstruction: the Delaware-Oslo ACL cohort study. Br J Sports Med. 2016;50(13):804-808. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27162233/
Ardern CL, et al. Fifty-five per cent return to competitive sport following anterior cruciate ligament reconstruction surgery: an updated systematic review and meta-analysis including aspects of physical functioning and contextual factors. Br J Sports Med. 2014;48(21):1543-1552. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25157180/
Nishioka T, et al. Return to Work Outcomes After Common Sports-Related Orthopaedic Procedures: A Systematic Review Stratified by Occupational Intensity and Workers' Compensation Status. Am J Sports Med. 2026. doi:10.1177/03635465261455044. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42376731/
Kurokawa T, et al. Anterior cruciate ligament reconstruction in the elderly: 5-Year follow-up study. Injury. 2024;55 Suppl 3:111529. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39300625/
Bouchard MD, et al. Orthobiologics in anterior cruciate ligament injuries. J Exp Orthop. 2026;13(3):e70905. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42732447/
Han JH, et al. Autologous adipose-derived mesenchymal stromal cell injection for knee osteoarthritis improves pain and function without a clear increase in adverse events: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2026 Aug 10. doi:10.1002/ksa.70569. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42573097/
院長監修記事

武内 晋司郎
(たけうち しんじろう)
シンセルクリニック総院長
三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。
医師プロフィールはこちら
三重大学医学部卒業。済生会中津病院や淀川キリスト教病院などで整形外科医としての経験を積み、現在は再生医療専門シンセルクリニックを開設。柔道やラグビーの経験から怪我や加齢による悩みに深く寄り添い、再生医療の可能性を追求。「思うままに動ける人生を」を信条に、患者様一人ひとりに最適な医療を提供しています。
医師プロフィールはこちら
同カテゴリの最新記事
Access
アクセス
大阪院
所在地
〒542-0086
大阪府大阪市中央区西心斎橋1-9-15
大京心斎橋ビル3F
Googleマップ
電車でお越しの方
大阪メトロ御堂筋線
心斎橋駅から徒歩3分
大阪メトロ御堂筋線
四つ橋駅から徒歩3分
名古屋(ドクターフォースクリニック)
所在地
〒460-0003
愛知県名古屋市中区錦1-15-8
アミティエ錦第一ビル3階
Googleマップ
電車でお越しの方
名古屋市営地下鉄桜通線
国際センター駅 徒歩8分
名古屋市営地下鉄東山線
伏見駅 徒歩7分
所在地
〒542-0086
大阪府大阪市中央区
西心斎橋1-9-15
大京心斎橋ビル3F
Googleマップ
電車でお越しの方
大阪メトロ御堂筋線
心斎橋駅から徒歩3分
大阪メトロ四つ橋線
四つ橋駅から徒歩3分
大阪
名古屋
広島
福岡
まずは、ご相談ください
再生医療の可能性を、一人でも多くの方に知って頂きたいと思っています。
新しい選択肢を「知る」ために、まずはお気軽にお問い合わせください。
電話受付
9:00〜18:00
月
火
水
木
金
土
日
※祝日は休診日となります。







